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#33.すっきりと青く、美しかった。

渡りペンギンが集団飛行を開始した。
朝のニュースでそんな一報が流れていた。

そうか、もうそんな季節になったのか。

毎年、秋から冬にかけて渡りペンギンたちはここより寒い地域から飛んでくる。
ここで冬を過ごして春先になると元いたところへと帰っていく。
“アレ”を見ると毎年、冬の到来を実感する。
そういえば今年はまだだったな。

空を滑るように、あるいは泳ぐように飛ぶその姿は、颯爽としていてかっこいい。

何年か前、怪我をして飛べない渡りペンギンを助けたことがある。
と言っても病院に連れて行き、飛べるようになるでの間少し面倒を見ただけなのだけれど、情がうつってしまって別れ際はわかっていても辛かった。

海で生きるペンギンは魚を食べるが、空を飛ぶ渡りペンギンは雑食だ。
木の実や虫はもちろん、肉も魚もなんでも食べる。
普通のペンギンとさして見た目も変わらないのだが、その生態はまるで違うらしい。

頭も良く比較的エサをくれるのことの多い人間に対し、友好的というか懐く個体も多くいるそうだ。

我が家で保護をしていた渡りペンギンは、ペン太と名付けていたのだけれど、そういえばペン太は元気にしているだろうか。

ペン太を保護し、もう大分飛べるようになった頃、同じ渡りペンギンが多くいる場所に返しに行った。
放たれて、こちらをチラチラと伺ったあと、何事も無かったかのように無事に群れへ合流したペン太を見届けて、ほかの渡りペンギンたちと見分けがつかなくなってから、ようやくその場所を後にした。

それからだった。毎年秋から冬に変わる頃、渡りペンギンがこちらにくる季節になるたび、うちの前に活きのいいイワシや木の実などが落ちるようになった。
そのどれもが、ペン太がすき好んで食べていたものだった。

いまだに別れたあとのペン太を確認は出来ていないが、この不思議な贈り物が届く間は元気なのだろう。

そんなことを考えながらポストに郵便を確認しにいくと、ふと足元に影が横切った。
思わず上を見上げるとその瞬間、顔の上からイワシが降ってきた。

……ペン太め。

逆光とイワシでその姿は見えなかったけど、これは絶対にペン太の仕業だ。
流星群やら花やらが降ってくるからとはいえ、イワシが降ることなんて滅多にない、いや一切ない。どう考えてもペン太以外に犯人はいない。
思わず、笑い声がこぼれ出た。

なんとなく生臭くなった顔面と、まだ若干動いているイワシに思うところはあるが、忘れずにいるのは自分だけじゃないことを嬉しく思う。
一頻り笑ったあと、また空を見上げる。

もうすっかりなんの影も見えないその空は、

すっきりと青く、美しかった。

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