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#19.暗い宇宙にただひとり

快適な宇宙(そら)の旅。

大気圏の外は当たり前だけど空気がない。
空気がないから音がない。
ゴウンゴウンと響く空調の音を楽しみながら、めくるめく景色の移り変わりを楽しむ。

景色が星の海に差し代わった頃、突然、窓の外を大きな何かが横切った。

横切ったと実際に気づいたのは、なにかヒレのようなものが左から右へと通り過ぎて行ったからだ。
それが過ぎるまでは、ただ景色がなにも見えなくなっただけで、どうなったのかも何も分からなかった。
真っ暗になったかと思うと、急に目も開けられないほど眩しくなって、また真っ暗になり少しすると煌々とした明かりにさらされてを、数回繰り返しす。

しばらくするとその何かからは距離が空いたのだろう。徐々にその全貌が見えてきた。

そこにいたのは、宙を泳ぐ巨大なクジラだった。
大きな口をあんぐりと開け、星屑をまるまる飲み込んでゆく。
星屑を飲み込むと、身体の模様がキラキラと光り輝く。
さっきの眩しかったのはそれだろう。

口を開け、飲み込み、光る。
その姿はあまりに雄大で、乗客たちはなにも言葉が出てこなかった。

クジラが線路の上を横切ろうとした為、列車も一時停止する。
こちらがそわそわとしながら様子を伺う姿を横目に、悠々とゆっくり進む。

時たま口を大きく開けては、その度に星の屑たちを飲み込んでいく。
あれはきっとパルメリウス流星群だったものたちだろう。

クジラも甘い星屑が好きなのかな、なんて考えていると、車内アナウンスが流れてくる。
このクジラは宇宙クジラの一種で、一番大きな種類のクジラだそうだ。
主に流星群の残りカス、星屑たちをエサとし温厚な性格で知能も高いそうだ。
エサを一度にたくさん食べるのだが、余分なエネルギーを放出するため、身体を発光させる。
その光量で個体の大きさを外敵にアピールするそうだ。

宇宙クジラはその生涯を独りで過ごし、独りで終える。
最期の時になるとまるまって尾ビレの方から自分の身体を丸ごと飲み込む。
そして最後には小さな赤ん坊のクジラが一体新たに残るのだそうだ。

宇宙クジラがゆっくりと過ぎ去る背中を見送って、ようやく列車が動き出す。

暗い宇宙にただひとり、悠々と泳ぐその後ろ姿は、ちっとも寂しそうなんかじゃなくて、ちょっぴりその背中が羨ましくもあった。

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