見出し画像

#15.たくさんの知らない景色

手紙が届いた。
遠い海の向こう、外国で暮らしいてる叔父からの手紙だ。

なんて事はない、季節の挨拶と向こうの近況、こっちの様子はどうかなどが書いてあって、あとは写真が数枚。

叔父さんは外国を渡り歩き、世界中を旅して回っている。そして、その時撮った写真の中でもとびきりのを数枚送ってくれるのだ。

雲でできた高原や、海坊主とのツーショット、虹色の氷山、たくさんの知らない景色を教えてくれる。

小さい頃、叔父さんはよく遊んでくれた。
色んな所に連れて行ってくれて、色んな事を教えてくれた。
コーヒーの淹れ方や学校のサボり方、
そして、宇宙の広さを教えてくれたのも、叔父さんだった。

“外の世界は広いぞ!自分が思うよりもずっとずっと、自分が小さいことすらすっかり忘れるほどに、世界はデカくて圧倒的だ!”

叔父さんはよくこんな事を言っていた。
当時は全然わからなかったけど、今なら何となくわかる。

初めて一人で外国に旅行に行った時や、アンドロメダ銀河の広さに感動した時、叔父さんの言葉が聞こえた気がした。

まだまだ現役の叔父さんは、この前までは銀河を渡り歩いていたはずだ、最近こちらに戻ってきてらしい。
今は、逆流の滝の奇跡の一枚を撮りに行っているらしい。

こちらが元気かどうか聞いてくるのは叔父さんなのに、居所が定まらないので手紙を送り返しても、本人のもとに届く事はほぼない。

だから、返事のかわりに貰った写真をアルバムに入れる。
写真が届いた日時と、裏面に書いてある地名を書いて貼っておく。


手紙は書かないけど、返事をするつもりで、なるべく綺麗に丁寧に文字を綴る。

叔父さんが世界を回るスピードには追いつけないけど、自分も行けた場所があればそこで写真を撮って、隣に貼る。

あとから見ると、なんだか一緒に旅をしてまわったような気分になれて楽しい。

さすがに、保護スーツを着てマグマ海の中で写真を撮ったり、巨大怪鳥の巣に雛として潜りこむなんて真似、自分にはできないけど、いつか勇気がでたらやってみたいなとも思う。

叔父さんは、いつも自分の憧れで、目標だ。

あの人と同じ事をしたいわけではないけど、自分のやりたい事にまっすぐ、純粋になれるその後ろ姿は、いつもカッコいいのだ。

写真をアルバムに貼ったあと、手紙を箱に仕舞ってから、ふと使いかけのインスタントカメラの事を思い出す。
窓の外は陽が落ち始めた夕方の手前。
陽が出ている今がチャンスだ。
綺麗だと思うその瞬間を、シャッターにおさめにいこう。

アスファルトに落ちた影が、淡く溶けて伸びていく。

いつも応援ありがとうございます! 頂いたお代は、公演のための制作費や、活動費、そして私が生きていくための生活費となります!! ぜひ、サポートよろしくお願い致します!