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#14.すうっと染みて消えてった。

昨日、遅くまで本を読んでいたせいで、あさは少し寝坊してしまった。
急いで着替えて家を出て、電車を乗り継ぎ都心へと向かう。
予定の時間にはなんとか間に合いそうだ。

今日は、映画を観る予定なのだ。

映画館で観るのは久しぶりだ。
近頃はもっぱら配信サービスを使うことの方が多い。
これから観に行くのは単館上映のインディーズ映画だ。
知り合いが監督をした作品で、今日が封切りなのだそうだ。せっかくなので初日に観たいと思い、今日のチケットを予約した。

映画館は雰囲気のいいミニシアターだ。ロビーでペットボトルのお茶を買い、開場まで少しの時間待っていると、スタッフの声かけにより扉が開かれる。

チケットは自由席、客の入りも平日の午前中なのでまばらだ。真ん中より少し前、視界いっぱいにスクリーンが広がる席を選ぶ。
あまり座り心地の良くない座席に少しだけ胸が躍る。レトロな感じがして好きなのだ。疲れるけど。
しばらくすると暗くなり、気分を若干引き締める。
大きな映画館とは違って、予告映像やCMはあまり流れず、すぐにはじまってしまうからだ。
ブザーの音が響き、さらに明かりが落ちていく。いよいよ幕が上がるのだ。


映画館を出て、街をうろつく。お腹が空いたのでどこか良さげな店がないか探すが、あまりピンとくる店がなかったのと、お腹が空いていたので、結局チェーン店のファミレスに入った。
ドリンクバーとランチのハンバーグ定食を頼んで、さっそくオレンジジュースを飲み干した。

映画は、正直言って、あまり自分にハマるものではなかった。
主人公の考え方や言動に共感できなかったらだ。
けれど、カメラワークや演出、脚本の構成、そして何よりキャストの熱演はどれも素晴らしいものだった。

知人の色が良くでた作品で、あの人らしさがかなり伝わってきた。


あの人と自分は、かなり性格も考え方も違うので、ハマることはないだろうなと思っていた(実際話を聞いたときも本人から同じことを言われた)が、自分にハマらなかっただけで面白かったことは確かである。

途中、すごく景色のいい場所でのシーンがあったので、今度会った時にどこで撮ったか聞いてみよう。

どのシーンもライティングが印象的で、自分もなんだかとても、たくさんの刺激を受けることができた。
人の作品を観ると、自分もやりたくなってソワソワする性分だ。帰ったらすぐにでも作業に取り組みたい気持ちだけ。
自分も頑張らねば、強くそう思った。

そうこうしているうちに注文の品が届く。
2杯目のオレンジジュースを飲みながら、ハンバーグを食べる。
久しぶりに食べたハンバーグ定食の味は、昔食べた時と変わらない懐かしい味がした。

帰りがけ、ふと目に止まったCDショップに寄る。
特に用事はないが、好きなジャンルのコーナーをうろついて、新譜を見つけて無駄遣いするか否かを迷う時間が好きなのである。

昔よく聞いていたバンドの新しいアルバムを見つけて、買うか悩んだが、今日はやめておくことにした。
断じて無駄な時間ではない。

途中ショッピングモールを見つけたのでそこにも立ち寄る。
来週に迫った取材旅行に向けて、買いたりない物を揃えられそうと思ったからだ。

トラベルコーナーがあったのでそこに向かう。簡易枕や収納袋、歯ブラシセットなどなど、細々とした物を買っていく。
思いつきで買い物をする事が多いので、いいものを見つけたと思うとすぐに買ってしまうのだけれど、結局使い勝手が悪くてそのまま仕舞い込まれてしまうことがよくある。
の、だが、気にせずに買い物を楽しむ。

多めの道草を食ったあと、ようやく家に辿り着くり

帰宅してすぐ、メールをチェック。
特になにも来ていなかったので、けさ飲みそびれたコーヒーを入れる。

ドリップしたコーヒーを、たくさんの氷の中へ落とす。
熱い温度で氷が溶けてカランと鳴る。
この音が昔から妙に好きだ、理由はなぜだろうか、自分でもわからない。
コーヒーを飲みながら窓面辺にもたれかかる。
空はすっかり陽が傾いて、オレンジジュース色に染まっていた。

カラン、コロン、カラリン。

夕焼けに、渋くて冷たいコーヒーの香りがすうっと染みて消えてった。

今日は夕飯、なに食べようかな。

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