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ある掃除夫の話。

星の降る夜なんて来なければいいのに、と、私は思う。
私はある星の掃除夫だ。この星は毎日沢山の星が降ってくるから、毎日ヘトヘトになるまで掃除をしなければ追いつかない。だので私のようなものが掃除夫となって散らばる星屑を回収する。トクベツな吸い取り機という物を背負って、長いホースを捌きながら地面に落ちた星屑を吸い集まる。
ジャリ、
と、足元で踏んでしまった星の欠片が音を立てて砕けた。
あぁ、ただでさえ面倒なのに余計に仕事を増やしてしまった。
一日かけて綺麗にした地面も、夜になるとすぐに星が降ってきてその屑で埋まる。
カーテンを締め切り、ベッドに倒れ込む。
星が降るのを見たくないから。

どれくらいそうしていただろうか、遠くの方で小さく、カタンと音が聞こえた気がした。
気になって玄関に様子を見に行くと、扉と床の隙間から一枚のチラシが差し込まれていた。
全く、広告は断っているのだけれど。些細な事で腹が立つ。ビリビリに破いてしまおうかと思いながらその紙を拾い上げると、想像していた広告とは違うもので、というか広告ですらなくて、それは、誰かの日記のようなものだった。

その人の世界でも降ってくる星屑の掃除は大変らしい。でも、その世界の星屑は食べれるんだそうで、口に入れるとひんやりと甘いらしい。

おかしな世界もあるもんだ。

その時の私は、どうしてだかその紙ペラ一枚に書かれた言葉が、不思議に本当の事のように感じた。

ふと、右のポケットに違和感を感じた。そういえば昼に仕事をしていた時に、邪魔でひろっていた星屑を突っ込んだまま、忘れていたのだ。

しばし、手のひらの星屑を見つめる。
馬鹿げているのはわかっているが、確かめずにはいられない。
恐る恐る、その星屑を口元まで運んで、そして


そのまま小さく齧ってみた。


結論から言おう。私の世界の星屑は、
甘くなんか無かった。
わかってはいたんだ、ただ、本当に確かめたい気持ちが少しだけあったのだ。
なんとなく、苦虫を噛み潰したような顔になっていた気がする。
その微妙な顔のまま、しばらく時も止まっていたような気がする。

今日はもう寝てしまおう。
こんなことをしたのだってきっと、疲れているからなのである。

次の日私は、掃除夫を辞めた。

これから先のプランもなにもないのだけれど、何となく、甘くもない星屑を無駄に拾い集めているのが嫌になったのだ。
大した理由なんてない。
自分の拾う星屑が甘く無かった。ただ、それだけ。

昨日、小さく齧った星の欠片は、涙が出るほどしょっぱかった。

#2.甘い星屑

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