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#21.キラキラと輝くヴェールの下

子供の頃、好きだった童話がある。
ひとりぼっちを嘆いてばかりのつきのうさぎが、おなじくひとりぼっちの月のウサギの存在に気づき、嘆くのをやめる。そんなような話だ。

結局、つきのうさぎは最後まで月のウサギと出会う事もないし、誰かに何かを言われる訳でもない。
自分の流した涙でウサギに気づき、ウサギが自分と同じく孤独であると思い、自分だけがひとりじゃないと知り、自らの力で孤独から抜け出す。

最初から最後まで、うさぎはひとりだった。


はじめてこの話を聞いたとき、不思議でならなかった。
なぜうさぎを誰も慰めないのだろうか?
なぜうさぎはつきを抜け出して、月のウサギに会いに行かなかったのだろうか。

昔はうさぎが寂しくなくなった理由がてんで理解出来なかったけれど、今はなんとなくわかる気がする。

メロウ海岸で地平線の彼方に浮かぶ二つの月を眺めていた時、ふいにこの童話を思い出した。

二つの月とひとりのうさぎ。

うさぎが見たのは月にうつるウサギの影で、ウサギそのものを見たわけではない。
ウサギの存在はうさぎだけが信じるものかもしれないし、うさぎとおなじくひとりぼっちのウサギがいたのかもわからない。

例え月にウサギがいなくても、うさぎはウサギの存在に救われたことは確かだ。
うさぎが会いに行かなかったのは、行けなかったのではなく、行く必要がなかったからだと自分は思う。

うさぎにとって大事なのは、影の正体などではなく、その時ウサギが居ると“思った事”で救われたという事実だ。

パールラベンダーの波は穏やかで、荒れることのない静かな海だ。
キラキラと輝くヴェールの下に、どんな秘密が隠れているのか、分からない今のままであって欲しいのは、わがままだろうか。

眩しく光る銀の砂浜と、柔らかな月の光を反射する波の光に照らされたふたつの月は、いつも自分の家から見える月よりも一層、綺麗に輝いて見えた。

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