#12.永遠に彼の中で眠り続ける
地下から発掘された巨大化石の正体は、未だ解明されていない。
とにかく巨大で、哺乳類と鳥類、さらには魚類の特徴まで備えているらしい。
なんでも、未知の生物らしく、古代に絶滅した新種の生き物らしい。
(絶滅した新種の生き物ってどう意味だろうか。)
本当に竜だったらどうしよう。
名前を公募で決めるらしく、世界中から集めているらしい。
こう言うのって普通、発見者が決めるものじゃなかったっけか?
詳しい事の経緯は分からないが、世界中が丸ごとひっくるめて彼に夢中であることは確かだ。
遥か昔に眠りについて、なんの因果か身体が残り、永い永い時を経て掘り起こされた彼は、安らかな眠りを邪魔するなと怒るだろうか。それとも、新しい目覚めに喜ぶのだろうか。
答えは永遠に彼の中で眠り続ける。
・・・なんて、そんなことを考えてしまうのも、ぐだぐだと管を巻いて身体が動こうとしないのも、何もかも全部、昨日の自分に託された今日のノルマのあまりの多さにめまいを起こしているからである。
いつまでも何もしないでいるわけには行かないので、重い腰をなんとか持ち上げて地下室へ向かう。
今日は昨日捨てられなかったものたちをまた更に仕分けて、倉庫の中を整理する。
必要な備品はもう用意してあるので、魔窟ではなく倉庫として機能するようにカタをつけるのだ。
物の配置を整えたり、綺麗に並べることは苦手じゃないが、物を捨てることは少し苦手だ。
まだ使えそうなものや、これから使うことになりそうな物は、たとえ今必要としていなくても、そのいつかを想像して捨てられなくなる。
人からもらった手紙や、写真、旅先のパンフレット、映画の半券なんかもそうだ。
少しでも思い出があるとその時何をしたか、どこに行ったか、色々思い出したり、調べ直してしまって作業を中断することがしばしば。
全く進まないのである。
もうすでに過去何度も自問自答を繰り返してきた思い出の品たちに、今度こそ別れを告げる。
どうしてもまた思い返したい物は、写真に撮りデータとして残しておく。
自分が覚えてる限り、思い出たちは死なないと信じて、本当に断腸の思いで別れを告げていく。
ありがとうと心の中で唱えながら、紙切れたちを捨てていく。
これ以上はもう、今の自分には決めきれないところまで減らして、辺りを見渡すとだいぶスッキリしていた。
ここからあとは、怒涛の勢いである。
あるべきものをあるべきところに仕舞い、並べ、整理する。
作業を始めて数時間後。
そこには、かつての魔窟の面影な綺麗さっぱりなくなった、倉庫らしい佇まいの備蓄室があった。
ゴミ袋も全て外に運び出し、全てが終わった後に庭に出た。
手にはいらないポスターや映画の半券、パンフレット。そして、数枚の写真と手紙だ。
なんとなく、ただ捨てるだけじゃ忍びなかったものたちを。自分の手で燃やすことにした。
ブリキの缶を用意して、その前に座り込む。
ライターで火をつけ、一枚いちまい燃やしていく。
燃えやすい紙はあっという間に火が燃え上がり、灰となって風にさらわれた。
小さく揺らぐオレンジ色した炎が、なんとなく自分の心を写しているようで、癒すようでもあった。
最後の一枚が燃え尽きるまでゆっくり見送る。
夕とよるの境い目の空と、暖かく光る炎のコントラストがやけに綺麗で、煙がひどく目に染みた。
うっすらと見える残月に気付いた頃には、白い灰だけが残っていた。
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