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天使の気まぐれで花が降る

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空想日記内短編連載小説『天使の気まぐれで花が降る』まとめ
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#小説

“天使の気まぐれで花が降る”

“天使の気まぐれで花が降る”

#1 .ピンクのアザレア 

天使の気まぐれで花が降る、という。
それは、花の日の言い伝えのようなもの。
子供の頃からよく聞かされていた話。

まさか本当だったとは。

その日の天気は、晴れのち花、ピンクのアザレアだった。
日もだいぶてっぺんに来た頃合い、いきなり頭の上に大量のアザレアが降ってきた。それは降るというか、花を入れたかごを逆さまにひっくり返したような量で、思わず空を見上げた時、たくさんの

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カップラーメンと消えた花

カップラーメンと消えた花

『帰れない』

そう言って泣きそうな顔をする天使に、俺は何も声をかけられなかった。

本来なら一定期間を過ぎれば自動的に呼び戻される“システム”があるらしいのだが、ハプニングでこちらに来てしまったためどうやらその“システム”が使えないらしい。

弱った天使は切れた羽の付け根が痛むのか、帰れない悲しみが強いのか、ぐったりとうずくまってしまった。
あいも変わらず人の布団を奪ったままである。

このまま

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空にいちばん近いところ

空にいちばん近いところ

なるべく高いところに行こう、そうしたら神様にだって気づいてもらえるかもしれない。

しょぼくれて小さくなった天使にそう提案した。
気休めかもしれない、無意味かもわからない。だけど何もせずに泣いている時間があるなら何かしたほうが気が紛れるんじゃないか。
ハプニングでこちらに来てしまっただけではあるが、飛び込んできたバカンスと思って下界を楽しむのいいんじゃないか。

なぜか、そんなふうに言葉を並べたて

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天使のはしご

天使のはしご

空から水が降る日は雨の日、
花が降る日は花の日、
氷が降る日は雪の日、
星屑が降る日は星の日、
この世界にはたくさんのものが降ってくる。

これらのいくつかは自然現象だ。メカニズムもある程度知られている。
けれど、花だけは長い歴史の中でも分からないことの方が多かった。

たとえば、降ったあと、水や星屑は大地に溶け込んだり川に流れたり山に積もったりする。
形として残る。
けれど、花は何故か一定期間時

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アザレアが香る

アザレアが香る

天使がいなくなってから2日が経った。
あれ以降何かがあるわけでもなく、ただ普通にいつもの日常が戻ってきた。

天使が元いたところにちゃんと帰れたのか、結局あのあとどうなったのかわからないけど、戻ってこないって事はなんとかなったのだと思う。
ぼろぼろの羽を羽ばたかせて飛んだ天使の背中が酷く綺麗に見えて、振り向いたあの時にどんな顔をしていたのかよく見えなかったことだけが心残り、というかちょっと悔しい気

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枯れないアザレア

枯れないアザレア

『なにしけたツラしてんの?さては、僕がいなくなって寂しくなっちゃった?』

滑り台から降りた俺は、そう言って人のことを茶化す天使の頭を軽くはたく。
うるさい。
折角ひとが感傷に浸っていたというのに邪魔にも程がある。というか、帰れたんじゃないのか?なんでここにいるのか、言いたいことは山ほどあったが、ドヤ顔でこちらを見下ろす天使の顔を見ていると、なんだかもうどうでも良くなってしまった。

『運命的な出

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