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“天使の気まぐれで花が降る”

#1.ピンクのアザレア 

天使の気まぐれで花が降る、という。
それは、花の日の言い伝えのようなもの。
子供の頃からよく聞かされていた話。

まさか本当だったとは。

その日の天気は、晴れのち花、ピンクのアザレアだった。
日もだいぶてっぺんに来た頃合い、いきなり頭の上に大量のアザレアが降ってきた。それは降るというか、花を入れたかごを逆さまにひっくり返したような量で、思わず空を見上げた時、たくさんのピンクの花びらに混じって、それは落ちてきた。

落ちてきたのだ。

天使が。

比喩とかじゃなくて、白い羽を生やして、頭に輪っかを乗っけた金髪碧眼の天使が、俺の頭めがけて落っこちてきたのだ。

『別に、あんたたち人間のために花を落としてるわけじゃ無いし。』

ぶつかった時の衝撃で気を失っていた天使は、目覚めるや否や食事を要求した。仕方なしにカップラーメンのカレー味があったのでそれを出したら、最初は文句を言いつつも、なんだかんだ美味しそうに完食した。
食べてる間、沈黙が流れ続けるのも気まずいもんで、花の日の話をした。
俺の故郷ではそういう言い伝えがあると。それを言ったら先ほどの返しだ。コイツ、本当に天使か?ふてぶてしいにも程がある。

『天界の花には、性格が悪いやつや主張のうるさいのがたまにあって、神様にお渡しできないやつを捨ててる訳。それをお前ら人間が勝手に拾って勝手にありがたがってるって話。』

カレーのスープが染み付いたフォークをひょいと振り上げ、得意げに言うが、なんでコイツがこんなに偉そうなんだろうか。
じゃあ、なんでお前はアザレアと落ちてきた訳?滑って転びでもした?
そう聞くと、ふてぶてしい仏頂面はもっとふてぶてしくなり、と言うかぶんむくれ出した。

『僕は、そんなドジしない!背中を突き飛ばされたんだ!バカな天使が数人僕のことを付きまとってたんだ!絶対にアイツらのせいだ!!』

天使は怒ると羽を広げるのだろうか、威嚇をするインコみたいだ。
その、広げた白い翼の根元が、赤く滲んでいた。
俺は咄嗟に、その箇所を覗き込む。
そこには痛々しい切り傷が刻まれていた。

なんでもっと早く言わない!そう怒ると、今度は俺をバカにしたような顔で見てきた。

『お前、馬鹿だろ。僕たち天使はこんな怪我、一瞬で治るのさ。』

確かに血はもう出ていないようだし、よく見ると傷口も塞ぎつつある。
けれどその治りは一瞬というには余りにもスローペースだった。

だとしても、こんな傷口、痛いものは痛いだろう。
何かで化膿しても困る。嫌がる天使を説き伏せて無理やり、俺は傷口の手当てをした。実は、こう言ったことには多少ばかりの心得があるのだ。
だから放って置けない訳でもあったのだけど。

どうやって帰るのかを聞くと、下界にきた天使は、一定以上の時間が経つと、勝手に呼び戻されるシステムらしい。だから明日の朝にでもいなくなっているというのだ。

腹を満たして、傷口の手当てもして落ち着いたのか、気づけば静かに寝息を立てているところだった。
なんと呑気な、マイペースというかワガママというか。
まあ、でも、いきなり後ろから突き飛ばされて、怪我もして、しかも知らない世界に落とされたのだ、空腹と痛みがどこかに行けば眠くもなるだろう。
あのふてぶてしさが不安から来るものだと思うと可愛げさえ感じる。

俺は、怪我をした迷子の天使にベッドを譲ってやることにした。

一晩くらい、どうってことない。そう思って。

次の日、目を覚ました俺は驚愕する。
昼前だというにも関わらず、グースカピーと寝こける天使がまだそこにいたからだ。



つづく。

天使の気まぐれで花が降る

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