見出し画像

小説:雷の道(水曜日)#07

洋介と僕は高校三年生の時、初めて同じクラスになった。
彼は誰もが知る有名人だった。
学年で一番綺麗だと評判のエリカと一年生の時からつきあっていたからだ。

だけどそれだけじゃない。
あっちのほうでも有名だった。
いやむしろあっちの方で有名だった。
従弟が社会人だったからかな。
そういう下ネタ情報を誰よりも詳しく知っていた。
進学校の男子の中では粋な存在だったんだ。

たまに二人が歩いている姿を目にした。
美しい少女と何処にでもいる男子高校生。
何故エリカのような綺麗でスタイルも良く頭が良い女の子が洋介を選んだのかは謎だった。
洋介の親が資産家の不動産屋でエリカの親が借金をしているという噂もあったけどその域を出なかった。

洋介と僕が個人的に仲良くなったのは結衣と付き合いだして直ぐだ。
エリカと結衣は幼馴染だったんだ。

「聞いたよ」
と洋介は今までたいして話した事などなかったのに無二の親友のような人懐っこさで話しかけてきた。
それは嫌な感じではなくむしろ、温かみをもった励ましに近かい話し方だった。
どっちが告白しどうやって付き合い始めたのか、そういうことは百も承知だけどあえて言わない。
そういう雰囲気で。
僕は事の顛末を話した。

二年生の冬、学校の帰りに偶然一緒になって海に誘った事。
二人で肩をならべて海岸線を歩いたこと。
そこで告白したこと。
なかなか返事がもらえず担任の別府に相談したこと。
三年生の春から付き合い始めたこと。
結衣の親が厳しくて大学に入るまで男女交際を固く禁じられていること。
仕方なく放課後の誰も居なくなった教室で会っていること。
それが最近、三年の新しい担任に見つかりそうになって会う場所に困っていること。

洋介は初めて聞いたという風にうなずいた。

「うちに来なよ」と言ったんだ。
「ダブルデートをしよう」と。


洋介の家は噂通り大きな家だった。
屋敷、と言った方がしっくりきた。
屋敷というのはこのための言葉だと思った。
最初は洋介の部屋で過ごした。
宿題をしたりゲームをしたりして。

午前中、二時間か三時間はそういうふうに過ぎていった。
昼を過ぎると洋介とエリカは部屋から出て行った。

「用事があるから出かけてくる。夕方まで戻らないし、夕方まで家のものは誰も帰ってこない」
そう言うと洋介はこっそりと僕にコンドームを手渡した。

上手くやれよと目で言いながら。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?