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「あの娘のレター」は天才によって作られたんだと思う

僕はそのとき高校生で教室の一番後ろの席に座り、頬杖をつきながら片想いをしていた女の子の事を考えていた。
たぶん、古典の授業中だったと思う。
大昔の恋の話。
でも頭の中には何も入ってこなかった。
その代わり昨日の夜聞いたメロディが頭の中を駆け巡っていた。
僕は思いつくままその歌詞を机の上に書き留めた。

放課後、それを見た友達が「詩人だね」と言った。
「これは僕が作ったんじゃないんだ」と僕は言った。
「そんなの関係ないよ。良い詩だ」と友達は言った。
(この詩を選んだキミが良いセンスをしてるんだよ、と言いたかったんだと思う)
友達は僕の書いた文字を発掘した遺跡でも扱うみたいに指でなぞった。
 
そう。それはとても良い詩だった。
天才だと思った。
でも今、その天才はこの世にはいない。
もうずいぶん前に死んだんだ。
僕が好きになったものは死んでいく。
友達も女の子も好きな音楽家も。

それは僕が歳を重ねたからだという見方もある。
いつか誰もが死ぬ。順番が来ただけだ。
それでも早すぎる。
僕はもっと存分に関わりたかった。
彼が、彼女が、生きているうちに。


退屈なこの国に エア・メールが届く
おまえからのレター 遠くから とても遠くから

わがままばかり言ってた お前にイカレてたよ
遠くからのレター おいら読めるぜ おまえの匂いさ

風の強いあの日 重たく曇り空 お別れ
飛行場まで おもえを乗っけてく
アクセル踏んづけて

やたらイキがってポリ公サイレン鳴らしてきた
おいらまるでシカト いまにも降りそう 重たいあの空

もう二度と会えない そんな気がしてさ
耳をふさいでた こんな空におまは飛んでく

作詞:忌野清志郎

不思議な事に、大人になった僕はその女の子(高校生の頃、片想いしてた人だ)を本当にリアルに、飛行場まで送り届けたんだ。
その時は何とも思わなかったけど、今思い出しているとそれは、まあ奇跡に近い事だったんだと思う。

そして彼女はやっぱり帰ってはこなかったんだ。永遠に。


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