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【ミステリーレビュー】掟上今日子の遺言書/西尾維新(2015)

掟上今日子の遺言書/西尾維新

"忘却探偵"シリーズ4作目となる長編ミステリー。



内容紹介


冤罪体質の青年・厄介。
あらゆる災いが降りかかる彼に、今度は少女が降ってきた!
眠るたびに記憶を失う忘却探偵の、タイムリミットミステリー!

中学生がビルから飛び降りた自殺未遂事件。
現場に居合わせた二十五歳の青年・隠館厄介は、生来の冤罪体質が災いし、容疑者とされてしまう。

現場には少女が書いたとされる遺書が残されていて――。
今日子さんは厄介の疑いを晴らし、事件を解決できるのか?

講談社BOOK倶楽部



解説/感想(ネタバレなし)


比較的早いペースで刊行されているシリーズであるにも関わらず、なんとなく間が空いてしまった。
オムニバス形式だった前作「掟上今日子の挑戦状」とは一変して、長編となった本作。
なかなかフォーマットが固まらない"忘却探偵"シリーズだが、1日おきに新しい今日子が生まれるのだとしたら、フォーマットがないランダムなスタイルのほうが彼女の物語にはそぐうのかもしれない。

とはいえ、第一弾「掟上今日子の備忘録」の視点人物となった隠館厄介が再登場。
原点回帰の趣もあるのは間違いないだろう。
冤罪体質って何だっけ、と記憶が薄れかけていた部分ではあったが、今回の冤罪騒ぎは極め付けで酷いため、一瞬で思い出すことができた。
飛び込み自殺に巻き込まれ、自ら大怪我を負ったにも関わらずマスコミに叩かれるウルトラCで、"冤罪体質"のアピールとしては申し分ないエピソード。
なんか上手いことピタゴラスイッチが入って犯人っぽくなっているならともかく、さすがに強引すぎて理屈が立たな過ぎた結果、物語内でも活きていない変な設定になってしまったのはもったいないかな。
1周回って、これで何のメンタル不調を起こさない厄介は凄い。

遺書を残し、自殺を試みた"遺言少女"。
しかし、その内容は具体性に欠け、とある漫画の世界観に影響を受けて死ぬことにした、といったものだった。
少女は意識不明で、真意も不明。
ショックを受けた作者は、責任をとる形で引退を宣言。
彼の引退を撤回させるため、かつての先輩である編集者・紺藤からの依頼を受け、厄介は今日子とともに遺言少女の自殺未済の背景を調査することになるというのが大まかなストーリー。
自殺の理由が遺書のとおりではないことを第三者が納得できるように暴く、というのは並大抵の難易度ではなくて、忘却探偵には向いていない仕事のようにも思えてしまう。
もちろん、向いていようがなかろうが調査しなければ物語は動かないのだが、今日子が依頼を受けたきっかけは、やけに痛快に映る。
影響力についての自己評価とは、いざ著名人になってしまうと、なかなか難しいのだろうな。
少なくとも、SNSはやらないほうが良いタイプの作家だろうか。



総評(ネタバレ注意)


賛否両論ありそうな、自殺未遂事件の真の動機。
納得感はあるものの、明確なロジックや証拠が出てきたわけでもなく、長編のオチとしては、少し弱いのかもしれない。
そもそも展開としても、どんでん返しやピンチがあったわけではなく。
相変わらず、厄介の視点による説明文は冗長で、省略しても問題ないはずの補足や解説が添えられるのだが、ここをコンパクトにすれば、十分短編~中編で成立できそうな印象。
中編集の1話として出てきていたら、純粋に自殺者が殺人者にひっくり返るインパクトに驚くことができていたかも。

最後、面白くなりそうな引きがあったのもポイント。
このシリーズにおいて、時系列が順序するのは珍しい。
将来的には今日子さんの過去を掘る日は来るのだろうけれど、1日ごとに記憶がリセットされる性質上、時間は一本道になりがち。
本作がまるまる前日譚が描かれる伏線だったとなれば、そちらの物語も注目せずにはいられないだろう。

ちなみに、部外者を勝手にセーラー服に着替えさせたうえ、着ていた服を焼却炉で燃やしてしまう中学校、シンプルにヤバくないか?
二度、同じコーデは着ない今日子のこだわりで、燃やされたという証言は事実ではないかもしれないが、この治安の悪さが事実であれば、この学校から探偵と敵対する犯罪者がバンバン出てきてもおかしくないよな……

#読書感想文

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