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【ミステリーレビュー】掟上今日子の推薦文/西尾維新(2015)

掟上今日子の推薦文/西尾維新

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"忘却探偵"シリーズ2作目となる書き下ろし長編。

あらすじ


親切守が警備員として配置されている美術館に、毎日現れては同じ絵を1時間は眺めていく掟上今日子。
彼女が言うには、二億円の価値があるらしい。
しかし、とある日を境に、今日子は絵を素通りするようになる。
守が理由は尋ねると、この絵の価値はせいぜい二百万とのこと。
寝るたびに記憶を失う今日子には、二億円と鑑定したときの記憶が残っておらず、どうして価値が暴落したのかはわからない。
"忘却探偵"らしい設定でのライトな謎からスタートする本作だが、この美術品によって、守はもっと大きな混乱に巻き込まれていくことになる。



概要/感想(ネタバレなし)


チュートリアル的な1巻を読んで、ここからどう盛り上がっていくのかな、と思ってページを開いてみてびっくり。
視点人物が変わっていた。
前作で視点人物を張っていた隠館厄介は、お役御免というわけではなく今後の作品にも出てくるようなので、2冊目はもう一人の主要人物・親切守のご紹介、といったところか。

新たな視点人物の登場に伴って、作風も少し変わった感あり。
前作が連作短編の形式で進行していたのに対し、本作は長編と言っていいだろう。
ひとつの大きな事件を通して扱っているというわけでもないのだが、親切守と掟上今日子の出会いから、事件に巻き込まれるまでの一連の流れが描かれており、登場人物も本作中では固定。
じっくり深掘りしながら、今日子さんの探偵活動を楽しむことができる。
コミカルなやりとりは残しつつ、ミステリーとしての空気感も強まった印象で、チュートリアルで諦めていなくて良かったな。

正直、視点人物を変えた意味はまだはっきりとは見えてこない。
事件によって職を失い、今日子さんに頼るというスタンスは同じで、自分語りになると"~けれども"構文を乱発して、はっきりしないところにも、近しいものを感じる。
彼らのキャラクター性の違いや、クロスオーバーなども、今後は見られるのだろうか。
何か意味はあるはずなので、あっと驚く伏線に期待である。



総評(ネタバレ注意)


美術館での価値急落事件は、言ってしまえば呼び水的な準備運動。
騒動のきっかけとなった和久井翁が、画家の卵たちに提供している高層マンション"アトリエ荘"の作業部屋で刺されるという殺人未遂事件が、本作のメインディッシュとなっている。
血が流れる事件は、シリーズ初。
本格ミステリーのはじまりはじまり、なのであるが、確かに、紹介文にしたときのインパクトは、価値急落の謎のほうが面白そう。
殺人事件だとしても新鮮味に欠けるし、ましてや殺人未遂だし。
そういうところも踏まえて構成を考えているのだろうから、作家へのリスペクトは高まるばかりだ。

さて、一応はフーダニット形式となるのだろうが、登場人物が少なすぎるので、ほぼ筋は見えているといったところ。
あとは、何が動機になったのか、という細部を詰めていくことになる。
素直に読んでも良いのだが、実質的に、倒叙法的に伏線を回収していく読み方になった読者も多かったのでは。
和久井翁が何をしたかったのかは、それなりに推測しやすかったのだが、犯人の動機に繋がる部分の理由付けが見事。
確かにその設定はあったけれど、完全に頭から抜き去っていた、といった部分をピンポイントで突いてきた感があり、犯人が読めたから面白くない、ではないのである。

最後には、新たな設定も加わって、いよいよ舞台が整ったのかな。
視点人物に愛着が湧くのはもう少し先になりそうだが、長いシリーズである。
どこまで追いかけることにするかは、次を読んで決めても遅くあるまい。

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