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【ミステリーレビュー】掟上今日子の備忘録/西尾維新(2014)

掟上今日子の備忘録/西尾維新

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西尾維新による"忘却探偵"シリーズの一作目。


あらすじ


1度眠ると記憶を失ってしまう"忘却探偵"こと掟上今日子と、冤罪体質で、毎度事件に巻き込まれる気弱な大男・隠館厄介。
その体質ゆえに、事件を1日でスピード解決していく今日子の探偵譚を、彼女に惹かれつつも忘却の儚さに憂う厄介の視点で綴るミステリーシリーズの第一弾。



概要/感想(ネタバレなし)


重厚すぎないミステリーが読みたい、というモードが続いているので、ここらで西尾維新にも触れておこうかなと。
2018年から随時、文庫版も刊行されている。

短編集のような構成で、第1巻となる本作は、全5話を収録。
1~3話は、それぞれで独立した短編ミステリーとして読めるが、3話から派生する形で展開される4話と5話は、ひとつの事件を場面で区切ったものである。
シリーズを通して迫っていくことになるであろう謎は残るものの、本作だけで読んでも物語としては完結する形。
登場人物の設定の把握や物語の世界観を掴むには適しており、肌に合わなければストップもできるので、入門書としてはちょうど良かったと思う。

取り扱う事件は、日常の謎以上、本格ミステリー未満といったところ。
発生する謎について、記憶喪失のタイムリミットがある今日子が、いかに素早く謎を解くかというスピード勝負的な性質を持つため、ライトな事件をテンポ良く解決していくという方向に振り切っている印象だ。
テンポが速すぎて、置き去り感が出てしまうのは、ややもったいない。
もう少し、事件発生から解決編までのプロセスに段階があればよかったのにな。
ライトノベルらしく会話に重点が置かれているせいか、妙に説明がかった台詞まわしも気になるが、慣れの問題としておこう。



総評(ネタバレ注意)


"冤罪体質"と言いつつ、発生する4つの事件の中で、厄介が疑いをかけられるのが最初の事件のみ。
その1話は、タイムリミットがある中でのスリリングさが出ていたのだけれど、続く2話、3話については、謎の面白さに対して、あっさり薄味。
一方で、今日子が命の危機に陥り、妙なサスペンス性を生み出している4話、5話は、事件そのものだけを見れば、オフィスでなんでもない調査をしただけ、という地味さである。
ある種、それで中編物語としてすっきりまとめてしまう筆力は、さすが西尾維新なのだが、設定が活きた話にもっと触れたかったかな。

また、ミステリーとしては、少しアンフェアなところも引っかかる。
1話は、結局犯人を罠にかけて炙り出すという手法をとるため、読者が挑戦できるのは、ハウダニットの部分だけ。
4話については、事実上、今日子自身の謎を厄介が認識するための手順として用意されたエピソードであり、発生した事件そのものに関して、読者は完全に置いてきぼりだ。
5話にある解決編にしても、意外と言えば意外、解釈としては面白いのだが、あまりにノーチャンス。
後々、ここで蒔いた種が大きな伏線になってくるとは考えられるものの、本作単体では複雑性や盛り上がりに欠け、ミステリーを下地にしたエンターテインメント作品だ、と割り切るにはややインパクト不足だったか。

もっとも、この辺りは、まずはキャラクターを固めるために、人物ありきといったところなのかもしれない。
スロースターターなシリーズものなんて珍しくもなく、1巻はあくまでチュートリアル的なものと認識しておくべきだろう。
本格的に物語が動き出す次巻以降に期待。
どこかに、物語が面白くなるブレイクスルーが待っている予感はする。

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