見出し画像

【名盤レビュー】EVER SEEN / Ray(1999)

EVER SEEN / Ray

画像1

Rayにとって、単独作品としては唯一のCD音源となるミニアルバム。

代表を務めるYUKIYAが在籍していたD≒SIRE、JILSをはじめ、BlüeやIze等、良質のソフト・ヴィジュアル系バンドを輩出したKreisレーベルに所属。
彼らもその例に漏れず、むしろ"良質"の看板を更なる高みへと引き上げていたバンドであろう。

ゼロ年代初頭の"ソフビ"ブームを牽引する形となったKreisだが、当時の肌感覚としては、(Da'vidノ使徒:aLを除き)王道的なバンドが所属しているV系レーベルであった。
サブジャンルという概念がなく、おおまかに、黒系と白系に分けられていた時代。
彼らは、幻想的で美しいメロディを得意とする白系の流れを汲んでいて、シーンの中心からメジャーシーンを見据える立ち位置にいたと言える。
しかし、バブルの中でV系の枠組みに取り込まれたグラムロックやハードロックを志向するムーブメントと混ざり、事後的に成立したサブジャンル・ソフビ系の流れに包含されて語られることになる。
実際、Rayのメンバーが解散後に結成したバンドが、ソフビの要素を強く含んでいた、あるいは脱ヴィジュアル系化したことを踏まえれば、明確なカテゴライズは難しいのだが、それでも、個人的な感覚としては彼らは紛うことなき白系バンドなのだ。

さて、この「EVER SEEN」は、デモテープにてリリースしていた楽曲のリテイクを中心とした7曲を収録。
歌モノの新曲は「Believe」のみとなるが、入手困難になっていた楽曲も多く、クオリティを高めたベスト盤と捉えても問題ない内容に仕上がっていた。
透明感を持たせつつも切れ味の鋭いサウンドと、高い表現力を誇るVo.RYO-亮-の歌声は、誰もが持つ感傷的な記憶をフラッシュバックさせ、とにかく切なさを駆り立てる。
時折、歪んだギターでダークな色合いを織り込んだり、歌謡曲要素を強めたりもしているが、原則的にはマイナーコードで疾走するV系的名曲のセオリーど真ん中であり、捨て曲なく感情をくすぐる、白系屈指の名盤と言えよう。


1. SCENE

インストナンバーとなるが、ブックレット上は散文詩も掲載されている。
鍵盤とストリングスがメインの幻想的な世界観。
切ないRayのストーリーの幕開けとして、効果的だったのではなかろうか。
なお、作詞・作曲はYUKIYA、編曲はKIYOSHI&HIDEYOSHIがクレジットされており、実質的にはD≒SIREが提供した楽曲と言えそうだ。

2. tear

代表曲でもあるキラーチューン。
鍵盤のフレーズが切なさを助長するイントロから、鳥肌が立ちっぱなしである。
サビはインパクト重視で歯切れ良く、余韻を残すことに重きを置いて。
その分、Bメロでドラマティックな激情をこれでもかと畳みかける、という構成が見事にハマっており、Bメロの時点で実質サビだろ、という贅沢さも味わえる。
必ずしも大ブレイクしたわけではない彼らが、今でも語り草になっているのは、まさに、この曲を産み落とした功績なのだろう。

3. Believe

「SCENE」を除けば、唯一の未発表曲となったロックチューン。
冒頭のアカペラの時点ではポップという印象を与えるのだが、演奏が入ってくると、ザクザクと刻むギターやタイトなドラムが、ソリッドさを引き出している。
広がりのあるサビを朗々と歌い上げる歌唱力も圧巻。
メロディの良さと、切れ味鋭いサウンドが融合し、ほんのりとファンタジックなアレンジを付け加えた彼ららしいナンバーに仕上がっていた。

4. regret

淡々と展開されるにもかかわらず、シンセのフレーズの巧みさと、サビでスイッチが入るハイトーンヴォイスにより、瞬間的にも心を揺さぶられる。
じわじわと沁み込む遅効性と、急にハッとさせられる即効性。
そのどちらをも有するミディアムバラードなど、他にいくつ見つけられるだろうか。
余韻を残すラストシーンもたまらない。
アルバムのバランスとしても、ここで一度テンポを落ち着かせたのが奏功しているのでは。

5. ALIVE

本作中では唯一、Gt.YOSHINORI-善徳-が作詞も担当。
Waiveにてセルフカヴァーもされており、結果的に知名度が高まった楽曲と言えるのかもしれない。
歪みを強めにかけて刻むギターが、ハードな印象を創出。
「regret」とのギャップもあって、よりインパクトが強まっており、ソリッドなサウンドで切なさを歌うRayの真骨頂を体現している1曲である。

6. Missing…

初期の楽曲ということもあり、より源流に近いビートロックスタイルなのだが、きちんと彼らの色に昇華。
「ALIVE」がクッションとなったこともあり、白系サウンドとも上手く馴染んだ。
いや、むしろアクセントとして効果的だったと言えるのかもしれない。
下地にLUNA SEAがあるのかな、という楽曲構成に、やはり彼らは王道なV系バンドなのだとニヤリとしてしまうこと請け合いである。

7. sky

哀愁歌謡的なAメロからのスタートは、意外性あり。
ラストにして邪道か、と思いきや、サビになるとやはり疾走感のある泣きメロが待っていて、最初から最後まで切なさを炸裂したままクロージング。
キーの高さは本作随一か。
本作が名盤たる所以は、"切なさ"という共通項で括られる一方で、その引き出し方が一辺倒ではないこと。
この「sky」は、その象徴的な1曲であった。


本作のもうひとつのポイントとして、ジャケットのギミックにも触れておきたい。
帯が特殊形状になっており、アーティスト写真と一体化。
パッケージすると、ふたりのRYO-亮-が立体的に重なる仕様となっていた。
アートワークそのものはシンプルなだけに、手に取ってはじめて気づく仕掛けと言え、世界観への影響は限定的だったかもしれないが、改めて趣深いデザインだったなと。
知る人ぞ知る、ではあまりにもったいない作品である。

#思い出の曲

この記事が参加している募集

思い出の曲

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?