【ミステリーレビュー】法月綸太郎の消息/法月綸太郎(2019)
法月綸太郎の消息/法月綸太郎
シリーズ第一作目から30周年、"法月綸太郎"シリーズとしては現時点での最新作となる中短編集。
内容紹介
解説/感想(ネタバレなし)
枠組みとしては、大きくふたつ。
ひとつは、"法月綸太郎"シリーズという枠の中で、古典の深掘りをしていく2編。
コナン・ドイルによるホームズ作品の中でも異質な立ち位置にある作品の背景を考察していく「白面のたてがみ」、同じくアガサ・クリスティのポワロ作品における、とある仮説に基づいてディスカッションしていく「カーテンコール」である。
もうひとつは、父である法月警視が抱えている事件を、綸太郎が安楽椅子探偵として解決に導く2編。
死んだふたりが、お互いの遺書を持っていたという奇妙な状況から真相を探る「あべこべの遺書」、殺人が発生する前に自首してきた男と、その後、実際に発生した殺人事件との関連性を推理する「殺さぬ先の自首」。
1冊通して、フィールドワーク的な展開はほとんどないのだが、想像力を空想の域まで広げてから、ロジックで可能性を絞っていく"法月綸太郎"シリーズの醍醐味は詰まっていたのでは。
特に印象に残るのは前者で、古典ミステリーの新解釈といった趣。
シリーズ内ではマイナーな作品のネタバレに触れる部分も多く、ある程度の知識があり、そのうえでアンオフィシャルな仮説に対する許容ができる読者が対象になってしまうのだが、解説は丁寧にされていることもあり、シリーズの何作かさえ読んでいれば、原作を読んでいないと面白さがわからないというわけでもない。
いずれにしても、議論の中でロジックを詰めていく作業を描いていることになるので、肌に合う、合わないははっきりと出そう。
ただし、本筋以外の部分で、オチになる仕掛けも用意。
評論だけで終わっていないのは、ミステリー作家としての矜持だろう。
総評(ネタバレ注意)
シリーズとして、30周年。
プロット上で用いるガジェットが、やや現代ナイズされた感はあるものの、ふたりの年齢はそこまでリアルタイムで歳をとっていくというタイプではないようだ。
前述のとおり、印象に残ったのは古典の深掘り。
新説というより、都市伝説の類に近いのでは。
従前の解釈に対しての敵意は特にないと言え、擦られ切って、もはやネタバレがネタバレではなくなってしまった古典シリーズであっても、まだまだ新しい読み方ができるという気付きになっていた。
アプローチが、神話とのリンクや著者の背景なども含んでいて、言葉尻を拾ってのこじつけだけでなく、都市伝説的な考察として、非常にクオリティが高いのだよな。
一方で、安楽椅子探偵パートが、少し消化不良。
複雑に謎めいている事件だけに、これにすっきりした解説が出れば良かったのだが、どこかふわっと丸められた感覚だった。
ここから本推理に詰めていくのだな、と切り替わるかと思ったタイミングで、警視が納得してしまって議論終了。
動きなしで表現するには、結論を急ぎ過ぎ感があるだろうか。
もっとも、これ以上長くなってしまうと、おそらく頭がパンクしてしまうのだけれど。
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