見出し画像

【ミステリーレビュー】キングを探せ/法月綸太郎(2011)

キングを探せ/法月綸太郎

画像1

2013年の"本格ミステリ・ベスト10"にて第1位を獲得した長編ミステリー。


あらすじ


それぞれに殺意を抱えた4人の男たち。
"カネゴン"の主導により、四重の交換殺人を企んだ彼らは、トランプのカードでターゲットと順番を決定する。
容疑者に確かなアリバイがある状況を作り出すことに成功。
動機から犯人に辿り着くこともできず、プロジェクトは成功するかに思われたが、メンバーの事故死によって、歯車が狂いはじめる。



概要/感想(ネタバレなし)


冒頭に、四重交換殺人の結団式が描写され、そのまま"夢の島"による殺人の顛末が語られるため、倒叙モノと言えるのだろうか。
しかしながら、警察が犯人グループを突き止めて終わり、とならないところが面白い。
尻尾を掴んだ、と思わせてからの犯人グループの不可解な行動。
そこからまた、新たな本格ミステリーがはじまっていくワクワク感があり、300頁程度のコンパクトなボリュームも相まって、一気読みしてしまった。

"法月綸太郎シリーズ"ではお約束となる、綸太郎の思い付き的な推理も、基本的に法月警視とのディスカッションの中で繰り出されるのみ。
いつものように捜査をかく乱するようなことはないのだが、それでも、大きな"やらかし"があるのが、いかにも彼らしい。
犯人当てがメインではないため、登場人物は少なく、シンプルに。
かといって、倒叙モノらしいハラハラドキドキも薄いのだが、この設定からロジカルな推理パートに持っていく筆運びに、プロットの上手さを感じる作品であった。



総評(ネタバレ注意)


冒頭から、シリアスな会合であるにも関わらず、ニックネームで相手を呼び合うオフ会のような雰囲気。
"りさぴょん"がいる時点で、性別誤認の叙述トリックを疑った人は多いだろうが、隠す様子もなく、男性であることを明示されてしまうので、なんだか肩透かしといったところだろう。
結局、ボランティアというオフの場で知り合っているし、ニックネームで呼び合う必然性もあまりなく、あまり活かされた設定ではなかったのかな。
もっとも、途中まで既に登場している人物の誰かが犯人グループの誰かなのでは、なんて推測も消えないので、ふわっとしたブラフにはなっていたのかもしれないが。

序盤の"夢の島"と"イクル君"によるサスペンス調のパートを読んだ段階では、どうやって犯人たちが追い詰められていくかを描くのかと思っていたが、法月親子の会話がメインになってからは、少し様相が変わっていく。
"夢の島"は早々と退場し、"イクル君"は消息不明に。
以降は、"りさぴょん"および"カネゴン"との頭脳戦に突入する。
綸太郎の仕掛ける罠は、法月警視が黙認していることを踏まえると相変わらずリアリティに欠けるとしか言いようがないのだが、ここで置かれる前提に、読者は惑わされることになった。
まさかタイトルが伏線だったとは、である。

コンパクトにまとまっていて、読みやすさもあり。
必要以上の悲壮感もなく、淡々と進んでいくテンポが心地良かった。
四重交換殺人という派手さに対して、犯人たちが急に自首した真相を暴く、という地味なロジックバトルに着地していくので、印象には残りにくいのかもしれないが、さらりと読むには悪くない1冊である。


#読書感想文

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?