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【アルバム解説】さよならまでのあまやどり⑫ ~うさぎのちあめ~

咲花-サカナ。-のフルアルバム「さよならまでのあまやどり」の楽曲解説も、残すところあと2曲。
小動物三部作の第二弾「うさぎ のち あめ」を解説します。


元ネタは17歳ぐらいのときに作った"雪とうさぎ"


高校生のときに、「雪とうさぎ」というタイトルで作った曲、というとなんだか早熟な気がしてしまうのだけれど、当時はコードから何から音楽理論がわからず、適当にMidiで打ち込んだドラムとベースの上からメロディラインだけ吹き込むという無茶苦茶な作曲だったので、土台から組み直しています。
一方で、歌詞だったりメロディだったり、当時頭の中で描いたものは極力そのまま残しているので、個人的には稚拙さと初々しさが混在して、あまり聴き返すことのない1曲になっているのかと。
気恥ずかしいのですよ、正直。

とはいえ、今コードやメロディを打ち込んだとして、おそらくこのメロディラインにすることはないなと思いますし、歌詞もこんなに素直にはならないだろうということで、ある種のオリジナリティは高まったのかもしれません。
楽曲単体における解説は、デジタルシングルの際に語った内容も併せて。


「さよならまでのあまやどり」全体のメタファー


小動物三部作は、アルバムの本編におけるインタールードとなります。
なので、具体的な物語に関わってくるというよりも、物語の行く末を暗示するような内容を示唆することで、感情表現の解像度を高めるというのが後付けでの目的です。
アルバム制作よりも前に三部作は制作していたので、あくまで後付けではあるのです。

「黒猫と花火」は、"君"が何度も見る夢であり、これからふたりの身に起こる出来事の暗示。
「野良犬に鎖」は、死別してしまったふたりを、束縛から自由になった元・飼い犬に見立てて、"僕"の心情表現を代弁。
そして、「うさぎ のち あめ」は、"僕"を待つ、動くことができない"君”という点で、物語全体とリンクが図られています。
出会ってから、別れるまで。
雪が雨に代わったら雪うさぎは死んでしまいますが、それを受け入れるには、もう一度逢うことが必要なのです。

待っているのは、雪うさぎであり、"君"である。
"僕"が戻ってきたところで、死んでしまうという結末は大きく変わらないのですが、待つという選択肢を捨てるわけにはいきません。
一方で雪うさぎを作った少年であり、"僕"。
彼は彼で、雪うさぎを忘れたわけではありませんでした。
単純に、生きている時間軸が違っていたのです。
「来週にでも、もう1度行ったら会えるかな」ぐらいの感覚だと、悪気がないだけに、この切なさは防ぐことができません。
「魔法が解ける、その日まで」でふたりが出会えたことで「さよならまでのあまやどり」がトゥルーエンドに向かったのだとしたら、「うさぎ のち あめ」は、ふたりが出会えないバッドエンドを示唆しています。


(ネタバレ注意)少年がうさぎにつけた名前とは



前述のとおり、元ネタから大きく歌詞は変えていないのですが、実は冒頭に、少年が雪うさぎに名前をつけるシーンを差し込んでいます。
当初、あまり深い意味は考えていなかったものの、うっすら、ここに大きな意味を持たせることになりそうな予感がしていたのです。
トゥルーエンドとバッドエンド、何がルート確定のトリガーになったのか。
それは、「カゼハレ」の魔法が共鳴して、幽霊だった"君"を見つけることができたから。
さて、"僕"がカゼハレを唱えたシーンは出てきましたが、それは"君"には聞こえていないはず。
どうして、"君"も「カゼハレ」を唱えて共鳴することができたのでしょうか。
共鳴している、ということは、"君"も魔法を唱える必要がありました。

ここまで書けばお気づきかと思います。
少年が、うさぎにつけた名前こそが「カゼハレ」。
大雪が降って遊びに行けず、近くの空き地で雪うさぎを作った少年は、「風よ吹け、晴れろ!」という願いを込めてカゼハレと名前をつけました。
もちろん、そんなに気合いを入れたネーミングではなく、一過性の遊びの中にある思い付きに近いものです。
うさぎの生まれ変わりが"君"なのか、「黒猫と花火」のように夢で見たのか、そこは想像にお任せしますが、あの日の雪うさぎと同じ境遇となった"君"は、何の気なしに、そのうさぎにとっては大切だった名前を呟いた。
ずっと夏草の丘に来ることを躊躇っていた"僕"が、急に会いに来たというのは、カゼハレの魔法が成立したからなのかもしれません。

さすがに、ここまで考察してくれた人はいないと思いますし、ここまで知らなくてもいいよ、という設定ではあります。
しかしながら、わざわざ発売から4ヵ月経つアルバムの曲解説を読んでくれたのだから、何かしらお土産は持って帰っていただきたいなと、ここでは細かい設定を書いている次第。
願わくば、もう1回聴いてみようかな、と思っていただけると幸いです。


次はいよいよ最終回、「あめあがり」です。


さよならまでのあまやどり / 咲花-サカナ。-


【発売日】2024/4/1(mon)

【価格】2,200円(税込)

【収録曲】

4月 さくらの花、咲くころ
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 可憐

5月 カゼハレ(風が強く、良く晴れた日)
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 新橋朱里

6月 忘れ物
  作詞 遠藤サカナ 作曲・編曲 新橋朱里

7月 黒猫と花火
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 新橋朱里

8月 夏草の丘
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 可憐

9月 枯花-カレバナ。-
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 可憐

10月 野良犬に鎖
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 Yuki

11月 ゆめわずらい。
  作詞 遠藤サカナ 作曲 Yuki & 遠藤サカナ 編曲 Yuki

12月 オナジソラノシタ
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 可憐

1月 魔法が解ける、その日まで
  作詞 遠藤サカナ 作曲・編曲 新橋朱里

2月 うさぎ のち あめ
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 Yuki

3月 あめあがり
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 可憐

ジャケットイラスト 酢平☆

【販売ショップ】

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