見出し画像

【アルバム解説】さよならまでのあまやどり⑥ ~夏草の丘~

咲花-サカナ。-のフルアルバム「さよならまでのあまやどり」。
5曲目に収録されている「夏草の丘」の解説です。



咲花-サカナ。-における"丘"ソング。


ヴィジュアル系を志すからには、"丘"ソングは作っておきたいところ。
もともと、「8月20日、夏草の丘にて」というタイトルを予定していたのだけれど、シンプルに「夏草の丘」だけにしてしまいました。
"僕"と"君"の待ち合わせ。
手紙なり、メールなりで誘ったときのタイトルっぽくしたかったのだけれど、こんなタイトルだったら果たし状だよな、と。

そんなわけで、テンプレ通りに"約束の丘"がテーマです。
ヴィジュアル系の歌詞だと、約束の丘で待っている、ということしか伝わらない抽象的なイメージじゃないですか。
そこに肉付けして、「さよならまでのあまやどり」の世界観に組み込んだらどうなるだろう、と歌詞を構成していきました。

ちなみに、この曲はアルバムの楽曲の中で一番最後にレコーディングしています。
オクターブ上でもコーラスを入れるか迷ったものの、ハイトーンの楽曲が続いていたこともあり、ミドルキーでの歌唱のみ。
得意なレンジではなかったので、もう少し仕上げたかったな、というのが本音ですが、Cメロは気持ち良く歌えました。


ダークサイドに切り替わる場面転換の役割


「忘れ物」が2020年6月の設定。
この「夏草の丘」は2023年8月という設定です。
"あまやどり"を始めたふたりは順調にステップを進めて、いよいよプロポーズが見えてきた。
そんなタイミングで、"僕"は夏草の丘での待ち合わせを提案。
そういう舞台設定でした。

ここでひとつ補足を加えると、待ち合わせをしたのは2022年の8月。
この時点で、もう1年が経過してしまっているわけです。
約束は果たされなかったらしい。
では、いったいふたりに何が起こったのか、というのを"君"の視点で切り取りました。
咲花-サカナ。-の楽曲、そんなにダークなサウンドは使っていないと思うのですが、人はよく死にます。
「黒猫と花火」の暗示を経て、いよいよダークサイドに突入です。

なお、アレンジは可憐くんに担当してもらいました。
死別によって、あまやどりは終わり。
皮肉なほどに、雲一つない夜空に美しい天の川が広がっている。
そんなイメージに対して、キラキラしたシンセと悲哀を帯びたフレーズが絶妙にマッチしていて、こんなにも意図を組んで再現できるものか、と驚かされます。
イントロやアウトロだけでも景色が浮かぶ楽曲になっているのではないでしょうか。


(ネタバレ注意)フルアルバムでやりたかったこと


これは完全にネタバレになるので、これから聴く人はご注意を。

まず、フルアルバムを作るにあたってやりたかったことのひとつに、叙述トリックを含めたいというのがありました。
音楽と歌詞を見て、想像の中で膨らませていた映像が、どこかのタイミングでひっくり返る。
ミステリー小説では常套の手法ですが、音楽に取り入れているアーティストってあまり聞いたことがないぞ、と。

その仕掛け針となるのが、この曲です。
事故で死んだのは"僕"であったと思わせたかった。
抽象的な歌詞だと浮かぶ映像が人それぞれで異なってしまうので、"君"の一人称で、出来るだけ具体的な描写を心掛けました。

死別した恋人との約束を健気に守っている彼女、という前提で歌詞を作り込み、そのうえで、想いを残して死んでしまった地縛霊の歌、という読み方でも通じるように整える。
この曲から、真相が明らかになる「魔法が解ける、その日まで」までは、そんな手順で歌詞を書いています。
例えば、原曲では「約束なんてしないで欲しかった」という歌詞だったのを、「約束なんてしなければよかった」に差し替え。
約束を守れなかったのは"君"のほうなので、後者のほうがしっくりくるなと。
他にも、赤とんぼが指先を(物理的に)すり抜けていたり、「右手に触れる温度がない」についても、"手を繋いでいた相手がいない"と受け取ってもらいつつ、(自分の)右手に触れてみたが温度がない、とも捉えられるようにしていたりするので、マルチエンドみたいな感覚で、それぞれ味わっていただけると幸いです。

トリックを自分で解説するのって、なんだかむずむずしますね。
「枯花-カレバナ。-」に続く。


さよならまでのあまやどり / 咲花-サカナ。-

【発売日】2024/4/1(mon)

【価格】2,200円(税込)

【収録曲】

4月 さくらの花、咲くころ
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 可憐

5月 カゼハレ(風が強く、良く晴れた日)
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 新橋朱里

6月 忘れ物
  作詞 遠藤サカナ 作曲・編曲 新橋朱里

7月 黒猫と花火
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 新橋朱里

8月 夏草の丘
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 可憐

9月 枯花-カレバナ。-
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 可憐

10月 野良犬に鎖
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 Yuki

11月 ゆめわずらい。
  作詞 遠藤サカナ 作曲 Yuki & 遠藤サカナ 編曲 Yuki

12月 オナジソラノシタ
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 可憐

1月 魔法が解ける、その日まで
  作詞 遠藤サカナ 作曲・編曲 新橋朱里

2月 うさぎ のち あめ
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 Yuki

3月 あめあがり
  作詞・作曲 遠藤サカナ 編曲 可憐

ジャケットイラスト 酢平☆

【販売ショップ】

”Raffine” ライナーノーツGARDEN

特典 : まつりのよる2
 1. 恋文
 2. 影になった夜
 3. 屋上思春期

OZ WORKS ONLINE SHOP

特典 : 忘れ物(demo)
 1. 忘れ物-demo take-
 2. 忘れ物-inst.-

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?