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【ミステリーレビュー】十角館の殺人(アフタヌーンKC)/綾辻行人、清原紘(2019)

十角館の殺人(アフタヌーンKC)/綾辻行人、清原紘

1987年に発表された綾辻行人の代表作「十角館の殺人」を清原紘のイラストによりコミカライズしたリメイク作品。



内容紹介


孤島に建つ十角形の奇妙な館を、大学のミステリ研に所属する7人が訪ねる。
この館を設計した中村青司は、半年前に謎の焼死を遂げていた。
そして、凄惨な殺人劇が、幕を開ける――。

第22回日本ミステリー文学大賞受賞の綾辻行人と、美しさの中に影がある絵でイラストレーターとしても活躍する清原紘がタッグを組んで贈る、本格ミステリの金字塔をもとにした「コミックリメイク」!


解説/感想(ネタバレなし)


映像化不可能と言われた、新本格ミステリーの金字塔。
まさかの実写ドラマ化も話題になっているが、一足先にコミカライズ化されていたのが、アフタヌーンKC版である。
著者である綾辻行人が完全監修。
コミック化によって、"コナン・ドイル"であるところの江南孝明が、女子大生・江南あきらに変更されている等、原作をそのまま移植しているわけではなく、時代設定もスマホがある現代となっている。

ボリューム的には、全5巻。
「名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」といった代表的な推理漫画でも、長編はおおかた、コミックス1~2冊におさめていることを踏まえると、ミステリー作品としては、実験的と言えるのかもしれない。
一方で、冗長だったという感覚はなく、"エラリィ"を探偵役とした角島と、江南を探偵役にした本土を行ったり来たりする視点の変化を、むしろコンパクトにまとめていた印象。
あまりに有名な作品のため、ここではあらすじは端折ってしまうが、角島で過去に起こった惨劇、ミステリー界の文豪をニックネームにするミステリ研の独自の文化、本土における江南や守須、島田の立ち位置など、本作に必要な情報を、テンポ良く展開していた。

原作からの改変については、昨今問題視されているテーマでもあり、原作ファンからすれば善し悪しもあるのだろうが、著者本人が監修していて、作画家とも良好な関係である以上、もうひとつの「十角館の殺人」であることは間違いない。
デビュー作ということで粗もあった原作を、より自然な表現で、深みのある表現で、と考えたうえでの、2019年の綾辻行人ならこうする、というメッセージであったと捉えておこうか。



総評(ネタバレ注意)


ということで、ネタバレを含めた感想。
「そして誰もいなくなった」をなぞりつつ、国内ミステリー界における叙述トリックの完成形と言っても良さそうな伝説的な作品。
結末における衝撃は、今更語るまでもないだろう。

原作を読んでいる前提で気になるところと言えば、叙述トリックに該当する部分がどう表現されているか、に尽きる。
ここについては、思った以上に正攻法で来たな、と。
登場人物全員を美形に描く、というのは、コミカライズ化への批判の常套句だが、それを逆手にとった形。
同じ顔に見えても別人だろう、という脳内補正を見事に逆手にとって、一人二役を堂々とやりきってしまった。
ツーブロック的な長髪は、髪を下したときと縛っているときの印象が変わり、キャラクターとも合っているからズルい。
角島と本土で髪型を使い分けているのが、メタ的に見ると不自然では、という突っ込みもあろうが、風邪をひいている演出としてセットしていない、という理由付けもしていて抜かりなしだ。

また、千織の死因が変わっていたのも、動機にまつわる悲しい誤解を生んでいて、結末の切なさを強める良い改変だったのでは。
他方、江南が女性になった理由については、はっきり示すことはできず、実際に購買層を意識したヴィジュアル的な改変だったのかもしれない。
ただし、それにより中村家に行く流れが自然になっていたし、パートナー役の島田がより胡散臭く映り、もしかしたら裏切るのかも、という不信感が強まっていたので、これはこれで。
実写版では、しっかり江南孝明が登場する模様。
さすがに漫画と同じ手は使えないはずなので、どうやって映像化するつもりなのか気になって仕方ない。
このためだけにhuluに入るか、結構本気で悩んでいる。


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