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【ミステリーレビュー】どんどん橋、落ちた/綾辻行人(1999)

どんどん橋、落ちた/綾辻行人

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"館シリーズ"で知られる綾辻行人の短編集。

「十角館の殺人」の功績は読まずとも耳に入ってくるレベル。
押さえておきたい作家であるとは思っていたのだが、"館シリーズ"の有名どころはネタバレしてしまっているし、ホラーや幻想文学にも造詣が深いとのことで、ミステリーとして読むべき作品は何か……と迷って今になってしまった。

本作は、"綾辻行人唯一の本格ミステリー短編集"と呼ばれているようだが、なるほど、そういうことか。
メタ視点も交えながら、"フェアなミステリールール"の限界に挑戦していて、読み慣れている人であれば、これが何を意味するかは理解できるであろう。
短編集ではあるが、それぞれの話は同じ時系列上に並んでいる。
ひとつ前の話のネタを、次の話で少しズラして引っ掛けのポイントに。
順番に読むことで、ミステリーの奥深さを感じることができる仕掛けになっているのは、さすがと唸るところだ。

国民的アニメを、かなりブラックな方向にパロディ化した「伊園家の崩壊」のインパクトが強いも、基本的には必要最低限の情報でサクっと犯人当てを楽しめるショートストーリーが中心。
探偵役に綾辻行人本人を据えているのが象徴的だが、"リンタロー"や"タケマル"といった交流のある作家がネタキャラとして登場したり、実在の編集者をモデルにしたエピソードを織り込んだり、内輪ネタが多いのも特徴か。
事前知識があると、なお趣深いのだろうが、20年経ったことを踏まえると、やや読者を置いてきぼりにするところはあったのかもしれないな。

なお、最初の発刊は1999年だが、新装改訂版が2017年に発表されている。
カバーイラストが、作中の"どんどん橋"の森の中のボロ吊り橋というイメージとはまったくかけ離れたものになってしまったので、そこについては以前の方が良かったと思うのだが。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


正直なところ、綾辻作品として最初に読むべきミステリーとしては失敗だったかもしれない。
確かに犯人当てではあるのだが、ことごとくルールの隅を突いた、騙すための叙述トリックで構成されていて、ロジック詰めで結論まで持っていくことができるのは、「伊園家の崩壊」ぐらいだった。
最初の「どんどん橋、落ちた」で"それはアリなんだ!?"と驚いたのは認める。
とはいえ、心構えができた「ぼうぼう森、燃えた」以降は、だいたいわかってしまって、事件のスケールとしても小粒。
「十角館の殺人」で聞いていた1行ですべてがひっくり返るカタルシスは、まったく要素がないわけではないが、想像よりも随分薄まっていたというのが本音である。
確かに"本格ミステリー"ではあった。
ただし、本格ミステリーの抜け道を知っているからこその本格ミステリーであると言っておこう。

また、オチについては、不気味さというか、ふわっとマクガフィン的に終わってしまうので、なんともそわそわする。
短編として1話ごとに解決していくスタイルだが、謎めいたUという人物との交流により、彼の正体が少しずつ紐解かれていくような描写も、話を跨って続けられる。
だからこそ、Uの正体が判明し、これまでに紹介されてきた話の中に、そのヒントが……という伏線回収を期待していたのだが、不条理というかなんというか、説明不足のままに終わってしまった。
この読後感は、さすがに賛否両論なのでは。

最後に、多くの話に、"発達障害気味の子供が動物を虐待する"という設定が当たり前のように登場するのが、個人的にはきつかった。
動物に対する意識は、この20年で大きく変わってきたものであるため、現代の価値観だけを持って批判するのは行きすぎだと思うし、作品の性質上、動物相手に暴力を働く人物を置く必要性があったのが理解するのだが、ここまでワンパターンにする必要性は感じない。
イノセントな醜悪を作り出すことで不条理の表現を強める意図でもあったのだろうか。

いずれにしても、もっと"叙述トリックの大家”としての醍醐味に触れてから読んだ方が、面白さを感じられたのだろうな、と。
作風を分かっていないと、"本格ミステリー裏ワザ集"で終わってしまう印象。
素直に本作のイメージを払拭しておきたいので、本格寄りの作品で、著者の傑作があれば是非推薦してほしい。

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