【名盤レビュー】CELLULOID / PIERROT(1997)
CELLULOID / PIERROT
PIERROTが1997年にリリースしたミニアルバム。
ノストラダムスが世界の終焉を予言した1999年に至るまで、終末思想はV系シーンにおけるひとつの様式美だったように思う。
そこに時代の流れを読んだストーリー性を付与し、コンセプチュアルに提示するPIERROTは、ギターシンセを用いたサウンドが斬新だった、Vo.キリトのライブパフォーマンスが特徴的だった、という評価基準ベースの人気を飛び越えて、宗教的とも言えるカリスマ性を放っていた。
言ってしまえば大予言を乗っ取ってしまった形だ。
10代の多感な時期に、PIERROTから受けた影響は非常に大きく、同じようなリスナーも多かったのではないかと推測する。
PIERROTとの出会いは、TSUTAYAでレンタルした「Screen」。
当時、白系と黒系というざっくりとした区分しかなかったV系シーンにおいて、どちらにも当てはまらない異質な音楽性に、戸惑いつつも衝撃を受けたのをはっきりと覚えている。
その日のうちに、街の新星堂まで自転車を飛ばして、リリースされていたCDを「Screen」を含めてすべて購入。
その中にあった1枚が、この「CELLULOID」であった。
リリース順に聴いたため、キリトがヴォーカルに転向前の「気狂いピエロ」で唖然とするのだが、「パンドラの匣」で一気に引き込まれる。
ベタなメロディアスチューンである「ドラキュラ」、「満月に照らされた最後の言葉」、「SEPIA」などが収録されていたのはハマりたての僕には大きく、この時点でPIERROTは"好きなバンド"として追加エントリーされたのだが、めでたく"入信"まで至ることになったのは、「CELLULOID」のラストの楽曲、「HUMAN GATE」の影響だと断言したい。
それまで、攻撃的、排他的な"負"の感情でマイノリティを救い上げるのがヴィジュアル系バンドの在り方だと信じて疑わなかった僕にとって、"それでも生きていかなければ"というストレートなメッセージは眩暈がするほどの破壊力を持っていたのだ。
それを素直に受け入れて、心を動かされている自分に、どれほど驚いたことか。
寄り添ってくれる、を通り越して、まさに"救われた"感覚だった。
本作のコンセプトは、「セルロイド」という未知の生命体が人格を得て、人間とはどういった生き物なのかを客観的な視点から語りかけるというもの。
ストーリー性の深みという点では、メジャー進出後のアルバム三部作に軍配が上がるのかもしれないが、心に深く根付いているのは、やはり「CELLULOID」で語りかけた人間の業なのである。
1. セルロイド
表題曲であり、アルバムの1曲目なのだが、他の楽曲の個性が強くて、やや地味な存在となってしまっている印象。
ただし、セオリーに従わず、じわじわと展開するミディアムナンバーをここに据えてしまう天邪鬼っぷりが、実にPIERROTらしいなとも思う。
変則的なドラムと、不気味に蠢くベースが効果的。
無機質なサウンドは、未知の生命体という設定とリンクしているようだ。
2. Adolf
90年代シーンを通ってきたリスナーにとって、両手の拳を頭上で叩きつけるフリは"Adolf"、もっと言えば"PIERROT"で通用する。
そんな共通言語を作ってしまった点でも革命的なナンバー。
ハードなサウンドでストレートに展開すると思いきや、一筋縄ではいかないサビのインパクトも強く、高度成長期のV系シーンにおいて、どこにもない音楽を奏でるバンドという印象を強めていた。
過激な歌詞という点でも、たびたび話題になる楽曲である。
3. 脳内モルヒネ
メジャー期にはシングルカットされるほどのキャッチーさを放つ一方で、歌詞は極めてダーク。
歌詞の考察を行えば行うほど、ポップに聞こえていたはずの楽曲が、不気味な不協和音にしか聞こえなくなってしまうから面白い。
ギターシンセを巧みに用いたサウンドワークが独特。
メジャーとインディーズの境界線を探っているように聞こえるが、ポップ志向のメジャーカルチャーへの皮肉が込められていると言えなくもないか。
4. Twelve
「パンドラの匣」に見られた王道感を踏襲して、アルバムとしてのバランスを整えているメロディアスチューン。
一般的なバンドであれば、聴きやすいこの楽曲がシングル的となるのだろうが、個の強さが武器の本作においては、むしろアクセントとして機能している感がある。
Gt.アイジとDr.TAKEOの共作ということでも知られる、隠れた人気曲。
5. 鬼と桜
無機質なPIERROTのサウンドに、和の世界観を融合させたハイブリッド。
儚さ、美しさと、ドロドロと蠢く怨念のような感情が、見事に同じ軸で表現されているのである。
シンプルなサビは、パンチ力に欠ける側面はあるも、左右から交互に繰り出されるような音響効果により、不気味さを増長。
世界観の創出としてはばっちりで、テクニカルなドラムに痺れること請け合いだ。
6. HUMAN GATE
今更多く語ることもないのだが、90年代のV系シーンにおいて、ポップでポジティブなメッセージを投げかける、ある意味での問題作。
ただし、無責任に背中を押すような作風で捻くれたV系リスナーの心を動かせたはずはなく、現実世界における不条理性や無力感に対して寄り添ったうえでの、"それでも生きていかなければ"だったからこそ、あんなにも響いたのだろう。
この曲がなかったとしても名盤にはなり得ただろうが、この曲の存在によって絶対的な作品になったと言っても過言ではない。
明るい曲調が、歌詞の世界観とシンクロして、裏側にある厳しい現実を想起させるのが上手いな、と。
半透明の特殊素材を表紙に使用したブックレットも非常に豪華。
あらゆる部分で世界観を表現する意識は、ヴィジュアル系バンドとして忘れてはいけない本質であろう。
CDのセールスが見込めて、予算面でも恵まれていた時代性も考慮すべきではあるが、とにかく求心力にかけては右に出るバンドはいなかった。
なるべくしてなったカリスマなのである。
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