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【ミステリーレビュー】リラ荘殺人事件/鮎川哲也(1968)

リラ荘殺人事件/鮎川哲也

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「黒いトランク」と並び、鮎川哲也の代表作となる日本の古典ミステリーにおける金字塔。


あらすじ


日本芸術大学の学生寮"リラ荘"に集まった7人の学生たち。
初日こそ、橘と紗絽女が婚約を発表するなど、愛憎入り乱れる当時の芸大生らしい夜を過ごす彼らであったが、リラ荘そばの崖下で、学生のひとり、尼リリスのレインコートを纏った屍体が発見されると、連続殺人の火ぶたが切って落とされていく。
傍らには、スペードのAのトランプカード。
ほどなくして、スペードの2の札も発見され、続いての犠牲者が。



概要/感想(ネタバレなし)


連載開始時は1956年。
実に65年の年月が経っており、電話番号が6桁で表現されているなど、さすがに時代モノとしての色も強まってきているが、名作は名作。
「りら荘事件」というタイトルでも出版されていたり、改版や増補版が存在することからも、その存在感や影響力がうかがえる。
文章や文化的な古臭さに慣れる必要はあるものの、リラ荘を中心とした連続殺人事件の禍々しさは雰囲気たっぷりで、ギミック重視の本格ミステリーが読みたければ、源流となる要素はここに詰まっていると言えるだろう。

トリックについては、今の時代ではテンプレートになっている定番モノが、手垢がついていない状態で使われているといったところ。
ミステリーを読み漁っている読者層であれば、いくつかのトリックは推測できたのかもしれない。
ただし、本作が見事だったのは、連続するそれぞれの殺人に、犯人に辿り着くためのロジックと、それに付随する謎が付きまとっていること。
どうやって毒を飲ませたのか、どのようにアリバイを作ったのか、死者の残したメモの意味は何か、どうして彼も殺されたのか...…
ひとつ理解して、犯人がわかったとしても、すべての真相を暴くには、なかなかに複雑なパズルを解かなければいけない。

警察があまりにポンコツすぎるのは、現代小説であれば難しいところではあるが、そこは洗練される前の時代。
探偵の有能っぷりを引き出すための引き立て役と見るべきか。



総評(ネタバレ注意)


明確な主人公を指定せず、客観的な文章で記載されているのも、本作の特徴。
ずっと探偵不在の状態で物語が進行するのだが、鉄子が連れてきた二条は、癖はあるものの推理をさせたらキレ者で、警察がまごまごしているうちに、真相を見抜いてしまう。
そうか、彼が探偵役か、と思わせたところで、解決編を待たずに彼もまた殺されてしまった。
まさか、こんなところでも裏切られるなんて。

そう、意識せずに読んでいたのだが、本作は星影龍三シリーズの1作目とのこと。
最後の殺人が終わった340頁を過ぎたあたりでようやく登場しながら、あっさりと真実を見抜いてしまった、スペシャルすぎる名探偵。
そのスピード感たるや、キャラを立てる間もなく解決へ導いてしまうほどで、デウスエクスマキナ感は否めないのだが、二条が目立とうとしすぎなければ、あるいは警察がもう少しちゃんとしていれば、彼の探偵力を見ることなく解決していたはずであり、一応は、そこまでのヒントで事件を解けるという、"読者への挑戦状"と同じ役割を果たしているのだろう。

読み慣れていれば、宣伝文を読んだだけで、トランプを使って殺人の順序を誤認させる=アリバイを作るトリックについては想像できてしまうはずだ。
それに伴い、犯人候補も一気に絞られるのだが、真犯人も別人により殺されたという設定を上乗せすることで、フーダニット上のひっかけを作っていたのも見事だった。
その登場人物は、後に殺されることを序盤の地の文により示唆されており、あくまでフェアなミステリーを貫くためのヒントかと思っていたら、同時にブラフだったとは。
古典だからシンプルであろう、とメタ的に高を括っていたがために騙されるという不甲斐なさである。

最後に補足すると、トリックが見破れるからといって、このトリックが簡単だとか陳腐だとかでは決してない。
あまりに有名になりすぎて、似たようなものがその後に乱立されすぎてしまったからに過ぎず、ミステリー初心者であれば十分に騙されると思われるし、何十冊と読破してきた猛者であっても、オリジナルに触れる感覚に近い本作には、味わい深さを感じるに違いないのだ。
殺人事件の大盤振る舞い。
犯人当ての選択肢としては極めて少なくなってしまうものの、本格ミステリー好きで、この設定にワクワクしない者はいないのでは。


#読書感想文 #ミステリー小説が好き

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