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地獄が終わってまた憂鬱


「……ったく、期末テストが終わったのになんで休みになんねぇんだよ」

テストが終わって晴れやかな気分のはずの俺たちは、周りの数人と文句を言い合う。
この学校は、期末テストが終わってから夏休みまでの間も授業をする。

「友達が行っている私立はもう休みなのに……」

別の高校に進学した友人のことが恨めしい。
同じ高校生なのに、どうしてこんなに違うのか。
そもそも校則だってうちは厳しすぎるし、部活だって……。

文句を言っている間に、ホームルームが終わった。
ホームルームの内容は何も頭に入っていない。
前に立って話している大人と違い、俺たちはまるで別の世界にいるようだった。

「俺たちはテストを頑張ったのに、ご褒美は無しかよ!」
「テストが終わったらすぐに夏休みでいいじゃん」
「これじゃ、お預けされている犬みたいじゃないか……」

ホームルームが終わっても文句は終わらない。
いつものメンツで固まって、愚痴を言い合う。

そもそも、こんな少しの期間に勉強して何の意味があるんだ?
うちは進学校でもないし、ましてや俺らはまだ1年生だぞ。

7月の初めなのに、気温は35度近くまで上がっていた。
例年より早くセミが鳴いている。
そんな中、俺たちは学校という閉鎖的な空間に閉じ込められている。


──ガラガラッ

勢いよく扉を開ける音が鳴り響く。

「さー。授業始めるぞ!」

1限担当の木村先生が威勢よく入ってくる。

なんでそんなにやる気があんだよ、先生。
先生も、もう夏休みがいいんじゃねぇの?


「じゃあ教科書の65ページを開いて……」

え、普通に授業進めんの? 正気?
いや、ありえないでしょ。

この期間って、「ゆるーくいこう」とか「ちょっとしたクイズでもしよう」とかのボーナスタイムじゃないのか。

そっちがその気なら、こっちもこの気。

荷物を片付けて。
準備完了っと。


おやすみなさい。






「お前、いつまで寝てんの?」

……びっくりした。もう授業が終わったのか。
定刻に鳴るチャイムの音すら脳には届かず、友人のやかましい声で目が覚める。

「1限、丸々寝てたな」

まじか。
まあでも、あっちがあの気だったから、こっちもこの気だっただけ。
おかげで、寝ている間に大好きなあの子とデートができたぜ。

「あー。ほんとに退屈だなぁ」
「この期間に、2学期中間テストの範囲を進めるってどうかしてるだろ」
「夏休みを挟むのに、誰が覚えているんだよ」

休み時間も変わらず文句で埋め尽くされる。
何も変わらない日常。


──キーンコーンカーンコーン

「よーし。始めようか」

2限が始まる。2限は佐香先生だ。
この時間の過ごし方も、相手の出方しだいだ。
俺は負けない。



「あー。俺さ、もうこの期間に授業進める気ないから」



 * * *



「先生、まじかよ!」

「神すぎんだろ、先生!」


生徒は大喝采だ。
いや、だってこんな期間に授業したくないでしょ。
俺が生徒だったら、絶対嫌だし。


「その代わり、夏休み明けたらしっかりやっていくぞー。今日は映画でも観るか」





授業が終わった。生徒は喜んでくれたな。
そもそも、こんな期間に授業をしても非効率。
2学期が始まってから、切り替えてやっていくほうがいいんだよ。

頭がいい学校ほど、メリハリつけてやっている。
だからこの期間は休み。

進学校でもないうちがなんでやるんだよ。
生徒もいっさい聞かないだろうし、寝ているし、意味ないよ。

「さぁ、次は何の映画を観ようかな……」

軽くスキップしながら教員室に戻ろうとした、そのときだ。

「佐香先生」

燦々と照りつける太陽を横目に、廊下の遠くから少し低い声で俺のことを呼ぶ。

でた。俺の大嫌いなお局先生。
ふだん偉そうなこと言っているけど、あんた生徒に嫌われてるからな。

「夏休みまでの授業のことで……。教科書、どこまで進める?」

どこまで? 0ページです。
いっさい歩みませんけど。

というか、こちらに判断を委ねているように見えて、もうお局の中では答えが決まっているに違いない。

「あー。えっと、俺……」

言いかけて止めた。

正直なことを言うのはやめておこう。
どうせまたキレ散らかされるだけだ。
あんたのせいで胃が痛いんだよ、こっちは。

「先生に合わせます」

模範解答。100点満点。
めんどくさい相手には、自分の意見は言わない。
これ鉄則。

「あ、じゃあ私は75ページまでいく予定だから、それに合わせられる?」

「わかりました。75ページまで進みます」

自分でも驚くほど、まっすぐ前を向いて答えた。
頭では昼ごはんのことしか考えていなかったけど。

最終的にテストに間に合えばいいのよ。
夏休み前に力を蓄えて、休み明けにしっかり進む。
俺が受け持っているクラスの今回のテスト平均、お局のクラスより10点も高かったし。
それが何よりの証明。

とりあえず "イエスマン" になって、その場は事なきを得た。





「さー。今日も映画観るか」

「さっすが先生!」
「どっかの先生とは違うなー」

テスト前とは打って変わってのんびりした授業風景。
誰も、何にも追われていない。

今日も合理的に生徒の評価を得ながら過ごす。
前回の続編でも観よう。

DVDをセットして、いつも通り再生を押す。
教室を暗くして……。
ん、なんか生徒が騒がしいな。

「どうした?」

クラスで一番目立つ生徒に聞く。

「なんか廊下にいます」

廊下に? 不審者か?
不審者ならば俺が正義のヒーローになるしかない。
大切な生徒には、指一本触れさせんぞ。

意を決して、視線を生徒から廊下に移す。




あ……。




「先生、何しているの?」





☀この記事はクロサキナオさんの企画参加記事です☀
#クロサキナオの2024SummerBash

https://note.com/kurosakina0/n/nca6ac9a35baa



いつもとテイストが違う記事で企画に参戦してみました!

生徒も教師も憂鬱に感じるテスト後の授業期間を、物語のようにしてみました。

この授業期間、同じように感じた人いるのかな……。
それとも授業はなかった人が多いのでしょうか……。


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