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なぜ「その物語は何かを隠蔽している」と考えるのか&「隠蔽するための物語」作品まとめ

◆「隠蔽するための物語」とは何なのか。

 先日、コミックDAYSに掲載された「天を夢見て」を読んで、「これは『隠蔽するための物語』ではないか」と思った。

「隠蔽するための物語」とは何か。

「言わない」ことで効果を狙っているわけではなく、「言えないこと」がある。その「言えないこと」を隠すために作品が存在している。
「言えない内容そのもの」と「『言えない(語れない)』という事実」を同時に隠してい

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「親を裏切り家から逃げ出さなければ、自分の人生を生きられない問題」について。

 ↑の記事の続き。
 引き続き、漫画「天を夢見て」について。

 初めて読んだ時は「自己実現のために全てを裏切ることをどう思うか」という話として読んだ。
 だから「そもそも他人からの承認でしか『自分』を保てないなら、それはもはや自分ではないのでは」と思い、あまり興味がわかなかった。

 だがどうも引っかかるものがあったので、もう一度読んでみた。
 その結果、この話は「主人公が自己実現すること(悪魔

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善意や愛情、良識からであったとしても「自分」を浸食されそうになれば、悪魔にならざるえない。

善意や愛情、良識からであったとしても「自分」を浸食されそうになれば、悪魔にならざるえない。

 最初読んだ時は、
 幼い頃から天使になりたかったんじゃないのか? 
 他人に承認されれば(選ばれれば)何でもよかったのか? 
 他人の承認なしでは「自分」がまったく成り立たないということ?
と「?」が十個くらい浮かんでまったくピンとこなかった。
 ただ何か引っかかるものがあるので、少し考えてみた。

 自分が「天を夢見て」で一番引っかかったのは、ガブリエと妹(ラミ)が主人公・ライアンの生き方や考

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【「逃げ上手の若君」キャラ語り】北畠顕家の圧倒的主人公感がまぶしすぎる。

【「逃げ上手の若君」キャラ語り】北畠顕家の圧倒的主人公感がまぶしすぎる。

※本記事には「逃げ上手の若君」の既刊16巻までのネタバレが含まれています。未読のかたはご注意ください。

 北畠顕家が最初出てきたときは「また、濃いキャラが出てきたな」としか思わなかった。
 今や自分も奥州武士になってついていきたいほどだ。カッコ良すぎ。

 以前瘴奸の記事で、歴史モノにおけるリアリティと共感のバランスの難しさについて書いた。

 北畠顕家は公家の名門の御曹司だ。
 この当時の公家

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「逃げ上手の若君」の「悪党」の描き方が好きだ。

「逃げ上手の若君」の「悪党」の描き方が好きだ。

*本記事には「逃げ上手の若君」のネタバレが含まれています。未読のかたはご注意ください。

 アニメが始まったことをきっかけに、六巻で止まっていた「逃げ上手の若君」の続きを読んでいる。
 信濃編で出てきた敵役たちが無茶苦茶好きで参る。特に瘴奸。

 歴史モノを描く時、当時の価値観をどこまで現代に沿わせるか(特に倫理観)、リアリティと共感のバランスが難しいと思う。
「そういう時代だったんだ」と割り切っ

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女性をエンパワーメントする田滝ききき「タワマンで不幸にならない方法」が好きすぎる。

女性をエンパワーメントする田滝ききき「タワマンで不幸にならない方法」が好きすぎる。


◆女性の可能性を抑圧する「ガラスの天井」との戦いをコメディで描く。

 この話はタワマンをモチーフにして「女性が社会において求められる規範や受ける抑圧」をテーマに据えて描いているコメディだ。

「タワマンで不幸にならない方法」と同じテーマを描いていた「セクシー田中さん」では、物語の序盤、女性を抑圧する「ガラスの天井」の話が出てくる。

「タワマンで不幸にならない方法」のいちごも「セクシー田中さん

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【「セクシー田中さん」考察】「朱里の進学先をなぜ短大から専門学校に変えてはいけないのか」など。

【「セクシー田中さん」考察】「朱里の進学先をなぜ短大から専門学校に変えてはいけないのか」など。

「『セクシー田中さん』調査報告書 (公表版)日本テレビ」の中で出てきた、原作者(以下作者)が疑問を口にした箇所について考えてみた。

◆作者が気にしていたのは改変そのものではなく、キャラがブレること。

 報告書を読んだ限りでは、作者が一番気にしていたのは「改変されること」ではなく「キャラがブレること」だ。
 何度か出てくるが、作者はドラマ化する上で「すべて原作通りというわけにはいかないこと」「改

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「鬼滅の刃」における「兄」とは何なのか&兄上(継国巌勝)についての独自解釈を語りたい。

「鬼滅の刃」における「兄」とは何なのか&兄上(継国巌勝)についての独自解釈を語りたい。

 前回の記事の続き……というより、思いついたことがあって考え直したので、その話をしたい。

※原作のネタバレがあります。
※独自解釈が爆発しているので、「解釈違いでも気にしない」という人のみお読みください。

◆「鬼滅の刃」の「兄」は、作内ルールを超越する特別な存在である。

「鬼滅の刃」は家族の絆が大きなテーマになっているが、その中でも「兄弟(妹)」はさらに特別だ。
 主人公の炭治郎が鬼になって

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【「鬼滅の刃」キャラ語り】継国巌勝はなぜ鬼になったのか、なぜ物事の認知の仕方がおかしいのかについて話したい。

【「鬼滅の刃」キャラ語り】継国巌勝はなぜ鬼になったのか、なぜ物事の認知の仕方がおかしいのかについて話したい。

※本記事には「鬼滅の刃」の原作のネタバレが含まれます。
※解釈違いがOKのかたのみお読みください。

「柱稽古編」が始まったこともあり、久しぶりに巌勝のことを思い出した。
 自分が巌勝に興味を惹かれるのは、言っていることが支離滅裂すぎてそれが何故なのかと考えてしまうからだ。

 巌勝は知覚自体は歪んでいない。しかし外から受け取った情報に対する解釈がおかしい。
「その発想はいくら何でも無理があるだろ

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アニメ「鬼滅の刃・柱稽古編」第一話の感想。

アニメ「鬼滅の刃・柱稽古編」第一話の感想。

 昨日から始まった「鬼滅の刃・柱稽古編」の第一話を見たのでその感想。
 物語的には決戦前の日常回の要素が強いけれど、柱の日常の姿が見れるのは柱稽古編くらいなので楽しみにしていた。

◆冒頭:アニメオリジナルの不死川と伊黒の共闘シーン

 のっけからアニメオリジナル展開で、不死川と伊黒が共闘していた。
 この二人、親友設定のはずだが、この時の言動は二人とも冨岡に対する時と大して変わらない。
 自分の

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「ライチ☆光クラブ」や「鉄血のオルフェンズ」のような、閉じられた子供の互助コミュニティの話が好きだ。

「ライチ☆光クラブ」や「鉄血のオルフェンズ」のような、閉じられた子供の互助コミュニティの話が好きだ。

 古屋兎丸と和山やまの「ライチ☆光クラブ」のコラボ本を買ったことをきっかけに、「ライチ☆光クラブ」への熱が再燃している。
 本編を読んだ時は、ジャイボはイカレたヤバい奴としか思わなかったが、コラボ本の短編で描かれたゼラへの恋心を前提にして本編を読むと、まったく別のキャラに見える。
 本編でも「ゼラが本当に好きだったから、大人の男になることが怖かった」という内面が、もう少しジャイボに寄り添う形で描か

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「世界が余りに強大で不可解すぎて、人間の個体差など無意味」というチートと逆の設定が好き。

「世界が余りに強大で不可解すぎて、人間の個体差など無意味」というチートと逆の設定が好き。

「ケントゥリア」の五話を読んだ。
 これは自分が好きそうな話だな、と期待がふくらんでいる。

「世界の全貌は人には理解できない」
「人は何一つ意味もわからず世界の隅っこで生きているだけ」
「人の個体差(能力差)など、世界から見ればミジンコと蟻程度の差しかない」
という世界観が大好きである。
 ホラーが好きなのは、ホラーというジャンル自体がこういう世界観だからだ(クトゥルフ神話が典型だけど)
 この

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色々引っかかることがあっても、「ケントゥリア」を面白いと思い期待する理由。

色々引っかかることがあっても、「ケントゥリア」を面白いと思い期待する理由。

 第一話の序盤は読んでいて引っかかるポイントが多かった。
「奴隷」は資産なので、労働力にならなそうな老人と二人分の価値がある妊婦が同じ待遇というのはありえないのでは、と気になった。
「買い手がつかない」というが、これも何故かわからない。ミラなんて絶対高値だろう。
 その他にも、船長の「何も成せない無価値な奴らだ」と言う台詞も引っかかった。
 これは明らかに奴隷を「商品」ではなく対等の人間として人生

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【ENNEAD(エネアド)感想】 S2第60話まで。ホルスのアヌビスの嫌いかたが好きである。

【ENNEAD(エネアド)感想】 S2第60話まで。ホルスのアヌビスの嫌いかたが好きである。

 続きが溜まったので読みに行ったら、「エネアド」が超絶面白いことになっていた。
 ホルスがイシスの神殿にかくまったセトを、オシリスによって呪いの力を与えられたアヌビスが連れさらいに来る。
 状況としてはこうなのだが、アヌビスは自我がない、セトはひたすらアヌビスを気遣う、ホルスはひたらすらセトのことしか考えていない。
 誰一人誰とも意思の疎通が出来ない(しようとしない)

 シーズン2に入ってからの

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