もうすぐ2巻が発売されるので、「ケントゥリア」のどこが面白いか、どこが好きかを語りたい。
※この記事は暗森透「ケントゥリア」の最新話までのネタバレが含まれます。未読のかたは↑から第一話・二話、最新二話が無料で読めます。
「ケントゥリア」はストーリーの進み方や起伏、シーンの緩急のつけかたが独特だと感じる。こう言ってはなんだが「面白く感じるはずがないのに、なぜか面白い」そう思ってしまうのだ(ナニヲイッテイルカワカラナイ)
「ケントゥリア」は孤独な少年ユリアンが奴隷の妊婦ミラと出会うところから話が始まる。
ユリアンは「疑似母親」であるミラに愛を与えられることで、自分は愛情というつながりを母親から与えられなかった、今まで持っていなかったことを知る。
第一話は暗喩的に見れば「生まれ直し」の儀式だ。ユリアンはここでミラからの愛情を受けて世界に生まれ落ち、人とつながりを持って(家族を持って)生きることになる。
理想的な母親(ミラ)に愛情を与えられ、もう一人の「毒親」とも言うべき母親(海)に力を与えられることで、広大な世界に産み落とされる。
ミラからディアナを託されたユリアンは、「生まれ落ちた地」でアンヴァルとティティに出会う。
ディアナを家族として守り、これから先の人生を生きていく。
「それは一体どういうことなのか」「そのためには何をすればいいのか」を、ユリアンはアンヴァルから学ぶ。
アンヴァルは力強さ、厳しい姿勢を持っており「生きるとはどういうことか」「人を守るとはどういうことか」をユリアンに教える。
アンヴァルはミラと同じく善良で優しい人間だが、明らかにミラとはユリアンに与える影響が違う。
ミラがユリアンの「疑似母親」ならば、アンヴァルは「疑似父親」である
ユリアンは村に共同体の一員として迎えられるための試練を乗り越え、働いて生活を支えることを学ぶ。
物語開始当初の無気力さが嘘のように、ユリアンは意思を持って生きるようになる。
生きる目的と生活の基盤を自分の力で手に入れたユリアンは、アンヴァル、ティティ、ディアナと村で暮らし家族になっていく。
ユリアンが落ち着いた生活を出来る拠点を得ると、視点は周囲(世界)に向けられる。
「ケントゥリア」の世界では、人が生きられる場所はわずかしかない。
世界の大部分は人間にとって未知の領域であり、理解できない畏怖の対象であるということが語られる。
ユリアンは村という拠点でディアナを守りながら生活しつつ、アンヴァルたちと世界の謎を解明していく。
「ケントゥリア」は「ユリアンが自立するまで」のチュートリアルが終わったあと、そういった「不可解で強大な世界と対峙しながら、少しずつ探索して謎を解き明かす話」になるのかと思っていた。
ところがここで話が急展開する(二巻がまだ発売前なのでうろ覚えな記憶に基づく)
ディアナが至高き君を殺す人物であることが予言され、占い師エルストリがディアナを殺しにやってくる。
至高き君に忠誠を誓うアンヴァルは、村人を人質にとられディアナを殺すか殺さないかという選択を迫られる。
この展開は首を捻った。
「命と引き換えに、ユリアンの家族が究極の選択を迫られる」というパターンはミラ(母親)が既にやっているからだ。
ミラが我が身を犠牲にしてユリアンとディアナを助けた。→ミラから愛情を受けることで家族を作るという目的ができた→家族を作った→アンヴァルが家族を犠牲にするか、自分の信念を犠牲にするかを迫られる
同じパターンを繰り返してはいけないということはないが、サイクルが早すぎるので「またそのパターンをやるのか」と思ったのだ。
主要登場人物の死という重大なエピソードは、ストーリーを推進させるため(多くは主人公の変化を促すために)起きる。
でも、ミラの死から余り時間が経っていないので、ユリアンに与える影響を(ミラの死とアンヴァルの死で)差異化できるように見えなかった。
なのでアンヴァルは死なないのではないかと予想していたが(死んで欲しくなかったし)ここで「アンヴァルがずっと死にそうなターン」が続く。
来週で死んじゃうかな、と思っていたら大丈夫、まだ生きていた、じゃあ生き残るんじゃ、いやでも今度こそ駄目かも、という回が続き、これだけ引っ張るなら死なないだろうと思い始めたところで死んだ。
「ミラと同じパターンでアンヴァルが死ぬ」
「アンヴァルの生死を引っ張りすぎ」
この辺りは展開がちょっとフラフラしているなあと思ったが、それに輪をかけて面白い不思議だったのが、アルコスの扱いだ。
アルコスは、ユリアンと同じ異能を持ちアンヴァルの仇でもある。一般的にはこれからの展開における敵役の一人になると予想されるキャラだ。(「鬼滅の刃」の猗窩座の立ち位置に見える)
アンヴァルの死と同時に駆けつけたユリアンに首を落とされた。だがすぐに蘇る。
ここから互角のバトルになり(もしくはアルコスがよくある真の力を見せつけて)決着がつかず、次戦を予告して去っていく。
そんなよくある仇役の「初顔見せ的エピソード」だろうと思っていた。
それが、だ。
まさかのこのフラグである。
こんな顔で見られたら屈辱の余り憤死しそうという顔をユリアンがする。
そしてこのフラグ通り、この後アルコスは一方的にボコられる。
驚くべき出落ち感、噛ませ犬ぶりだ。
いや一体どういうことだよ、お前、何のために出てきたんだよ、森に出てきた樹の化け物?(うろ覚え)と同じ扱いじゃないか。
と突っ込みが止まらない。
この展開で、それまでまったく興味がなかったアルコスのことが大好きになった(こういう小物キャラが好きなのだ)
死なないで欲しいが……無理かな。
この感覚、何かに似ているなと考えた時に、オープンワールドのゲームが思い浮かんだ。
メインのストーリーはあるが、それを追い続けるのではない。急に何か興味が惹かれるものが出てきたらそちらへ行ってみたり、気ままに探索したりする。そうこうしているうちにレベルが上がりすぎて「強い」と思っていたボスキャラが意外なほど弱くてあっという間に倒せてしまう。
興味を惹かれるエピソードを追いかけているうちに、ある地点に足を踏み入れたらメインの状況おかまいなしに別の話が始まる。
全体の枠組みがわからないまま、条件を満たした順に単体のエピソードが先行してどんどん進んでいくので、通常のストーリーとして読むと「うん?」と思う箇所もある。
ただ「別の状況で来たら、別のフラグ踏んでいたら、違う展開になっていたんじゃないか」と思えるような、一本道のストーリーでは味わえない楽しさがある。
二話の↓この展開も「選択肢を間違えた」か「何かフラグを見落とした」「正規ルートが別にありそう」な感覚がある(ないんだけど)
ユリアンには「家族であるディアナを守る」以外の目的は(現在は中間目的さえ)ない。
この世界のどこに行くのも何をするのも、どんな風に生きるかも自由だ。
自分が「ケントゥリア」が好きなのは、こういう世界の枠組みの広大さと自由さがあるからだ。その枠組みの中ならある程度何をやるのも自由だし、特にやってはいけないことが決まっていない(そもそも話の目的が決まっていない、中間目的すらない)
ただ自由に動いたら始まるイベントもあるし、いつの間にかフラグを踏んでいることもある。何か回収し忘れたことがあると話が思わぬ方向に進むかもしれない。漫画に描かれているのは実はサブルートで、実はどこかにメインルートがあるのかもしれない。
そう想像することができる自由さと広大な余白が、世界観やストーリーの展開のしかたにある。
もしかしたらこの先は一本道のストーリーになってしまうかもしれないが(いや、元々一本道なんだけれど)出来ればずっとこの先が読めない気ままな自由さで話が進んで欲しい。
どこかにある別のフラグを踏めばいきなりラスボス戦になるなど、別の展開が起こりそうな、色々な展開の可能性が常に等価に並べられている感覚が好きなんだよね。
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