物語のタネ その七『けもパンファイトクラブ #46』
コーナーに追い詰められたペケ丸。
スーパーフライが両手でロープを掴み、円筒を作るように翼でペケ丸を包み込む。
この光景、どこかで観た記憶があるんだけど・・・。
そうだ、吾輩のご主人であるしずか嬢の父、今は亡き和夫さんがしずか嬢に隠れて観ていた深夜のバラエティ番組でやっていた“生着替え“だ。
円筒の中でアイドルが水着に着替えるのだが、制限時間が来るとその円筒が下がってしまう。
時間が迫って来て、マズイ!という状況になると、周りのタレントたちが一斉に体を隠すためのバスタオルを投げ入れていたっけ。
ふとその時、試合前のペケ丸の言葉が蘇る。
“タオル投げたら、殺すぞ“
勿論、今は投げないよ、ペケ丸。
タオルを投げることなく試合が終わると信じている。
だが、今の状況はどう見てもピンチだ!
両翼で円筒を作ったスーパーフライの目が残忍な笑みを含んで赤く光る。
深呼吸をするかのように背筋を伸ばして反り返り頭を少し後方に・・・。
と、
ウォワチャワチャチャワウォチャーーーーーーー!
まるでキツツキみたいに嘴突きの連打攻撃を開始した!
ちなみに、先ほどの音声も吾輩の想像、頭の中で鳴った音。
ペケ丸!
スーパーフライの攻撃のスピードは速い!
吾輩は円筒の隙間からその中にいるペケ丸の様子を必死で探る。
ペケ丸は顔の前で開いた両手をクロスしている。
あー、突きから顔を守るのが精一杯だ。
このままでは倒されるのも時間の問題なんじゃないか・・・。
殺されても構わないから、と吾輩はタオルに手を伸ばす。
その時、あれ⁈
スーパーフライの顔が微妙に左右に揺れているような・・・。
スピードは衰えず突きの連打は続いているのだが。
「ペケ丸、見切っとるだに」
隣に立っていたカモノハシのグレートがボソリと呟いた。
「ペケ丸が顔の前でクロスしている手、よく見てみたら分かるに」
え?手?
あれ単に顔を隠しているんじゃないの?
吾輩は改めてペケ丸の顔の前のクロスされた両手をジッと見た・・・。
「グレート」
「ん?」
「早過ぎてよく分からん・・・」
グレートの嘴が半開きになった気がする。
「わからんか・・・。ペケ丸は、正面からの突きを、手を使って左右にはらっているだに。ほんのちょっとした力で、突きの軌道を変えている。円筒の体制になったことで、嘴の突きが攻撃出来る範囲が頭部周辺に限定されたことで、そこに集中すればいいから逆に見切りはし易くなっただに。しかし、アイツ、合気道の心得があるのかに?」
そうなのか!さすがだな、ペケ丸。
スーパーフライの攻撃が止まった。
「はいはい、悪あがきはこれまでだ」
それを聞いてペケ丸がフッと笑う。
「なに余裕かましたふりしてんだよ。マジで一発も当たってねえぞ」
スーパーフライの顔に明らかにイラつきが見える。
「ちょこまかちょこまか避けるしか出来ねえ奴が強がってんじゃねえよ」「避けられるような攻撃してる奴はどこのどいつだよ」
スーパーフライの目に怒りの炎が現れた。
「ほざいてんじゃねえ!!」
スーパーフライの体が大きく反り返る。
その反動を利用して、これまでに無い勢いで鋭い嘴がペケ丸に迫る!
危ない!ペケ丸!!
グワッシンィィンーーー!
両者の動きが止まった。
スーパーフライの嘴は、ペケ丸の顔面の直前で止まっている。
その嘴をペケ丸の両手ががっしりと掴んでいる。
「つーかまーえた」
ペケ丸がニヤリと笑った。
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