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時計の契約:第5章21時

21時:過去と未来を繋ぐ

「ちょっとまって、君!!僕たち怪しくないからー」と怪しさ満点で追いかけるが、体力がかなり消耗されているので二人ともフラフラだった。その先には深い森が見える。その奥に少女が入っていったので追い抱える。その時、悪魔たちが俺たちに忠告をした。
「ここからは危険だ。」その言葉にほっとする俺がいた。ゼー、ハー、と息が整わないでいると、はるが口を開いた。
「なんで追いかけたんだっけ」その言葉で俺たちは笑ってしまった。確かに、あの本が探している本だという保証は一ミリもない。ただ逃げたから反射的に追いかけたに過ぎなかった。俺たちはそのまま来た道を引き返した。
 
さっきの市場に戻るがそれらしい本は見つからない。やっぱりあの子の本だがそうだったのか?どうすることもできず、俺たちは先に次の場所に向かうことにした。
 
次の目的地は、禁断の部屋という見るからに怪しい部屋だった。この部屋は学園内でも特に厳重に管理されており、一般生徒や教師たちは立ち入ることができない。もちろん二人も入ることはできない。学園の最深部に位置し、厚い扉で封じられている。扉の回りには古代の紋章や魔法陣が刻まれ、その魔力が部屋を守っている。扉を開けるには強力な魔法の知識と力が必要となるようだ。どこか入口はないか手分けをして探してみるが、どこにも入口は見つからなかった。

途方に暮れていると、悪魔たちが前をふさぐように立ち、突然戦闘態勢をとった。巣の姿に何が起こっているのか見当もつかないが、危険な奴がきたことだけは感じた。コツコツコツ。靴の音が静かな建物に反響する。暗い影から出てきたのは先ほどの少女だった。真っ黒いフードから見える白い髪で分かった。フードを取り、彼女は冷ややかな目でこちらを見ている。悪魔たちも動かない、動けないのか?とてもつもなく邪悪な何かを感じる。
 
黒い悪魔が耳打ちをする。
「さっきは気付かなかったが、こいつは時の本にそっくりだ」
俺たちは驚いた。
こんな少女が時の本だと?!彼女は無表情で俺たちを見ている。俺は彼女に語り掛けた。
「君は、時の本なのか?」
少女は答える
「違うわ、それは姉さまのことよ。」
彼女の目には涙が浮かんでいる。少女は続けてこう語る
「世界の闇を喰らいすぎたわ。今にも理性をなくしそうなの。だからそうなる前に、この本を消滅してほしいの」
とても聞き取りにくいほど小さな声は震えているようだった。

よく見ると彼女もこの悪魔たちのようにやせ細っていた。
「姉さまは髪の色が黒よ。もうあまり力が残っていないの。」
その目は、この悪魔たちのように自分の運命を受けているような寂しく諦めに似たような目をしていた。
「このカギをもって扉を開けて。あなたたちの共通のことを思い出して、さすれば、まだ間に合うかもしれない。二人ならきっと大丈夫だから」
そういって彼女はまた影へ消えていった。戦闘態勢だった悪魔たちの緊張がほどける。俺たちの体が更に重たく感じる、時間が迫っている。
 
禁断の部屋には、これまでこの世界でみた紋章や魔法陣とは違った宝飾で飾られており、心なしか俺たちも悪魔たちも体力が回復していて来ているように感じた。天まで届きそうなほど高い天井にはびっしりと本が詰まっている。この中から探すのは骨が折れそうだ。俺たちは手分けをしてそれらしいものを探していった。どれくらい経ったのだろうか、全く見つからない。今まで運がよかっただけなのか、それらしいものがわからない。まずそれらしいとは何だったのかすら分からなくなっていた。

「これだけ広い中からたった一冊を探し出すのは至難の業だろ?もし遙ならさ、どこに隠すと思う?」
遙は指をあごにあてて考え出した。
「そうだなぁ、もし俺がこの広い中に隠すとすれば・・・」
広い部屋中をゆっくりと見渡す。遙が指差したのは、部屋の奥にある巨大な彫像の台座だった。彫像の台座は周囲よりも際立っており、一番目立つ場所でもあった。
「あそこの彫像の台座だな。逆にこんなに目立つ場所に隠すのが最も賢明だろう」
俺は興味深げに彫像の台座を見つめながら、納得したようにうなずいた。
「確かに、誰もが目を向けるような場所に隠せば、逆に見過ごされるかもしれない。さっそく探してみよう」
二人は彫像の台座に近づき、注意深く調査を始めた。彫像の台座の裏側や、隙間、台座の下にも手を伸ばし、探索を続けた。
 
 
彫像の台座を探索する中、俺はほんの少し、長さにして1ミリもない程の少し浮き上がっている部分を見つけた。遙に目で合図を送り、力を合わせてその浮き上がった部分を持ち上げた。すると、台座の下からひときわ古びた本が2冊現れた。その本は世界中の闇を吸い込んだかのような暗さを放ち、不気味なまでに静かに存在感を漂わせていた。
 
「これが時の本だ!」悪魔の声が響いた。
俺たちは興奮を抑えきれず、本を手に取る。
 
「2冊ということはこれで全ての文字がそろう!」
本の表紙には、文字が刻まれている。
一つは「黒き時の本」もう一つは「白き時の本」だ。喜びを胸に抱きながら、俺たちは時の本を開いた。その瞬間、周囲に奇妙な光が満ち、広大なる知識と叡智が彼らを包み込んだ。
 
時の本の頁がパラパラとめくられ、そこには今までに見たこともない呪文が浮かび上がった。それは彼らが求めていた文字だった。
俺の本からはカタカナの「ナ」が、遙の本からはカタカナの「レ」だ。これで全ての文字がそろった。二人は互いに手を取り合い、文字に触れた。すると、文字が浮かび上がり、大きなパズルのような形に変化した。俺たちはガッツポーズをした。「これで最後の試練に挑めるな」遙が言った。
 
「そうだ。この呪文を使って、元の世界に戻るんだ!」俺は力強く答えた。


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