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時計の契約:第5章23時

23時:時の結び目

「そして、家で怯えていた時に時の本が俺の憎悪を感じ俺を喰らったんだ」悪魔たちはそうやって本の中に閉じ込められてしまったようだ。その記憶を辿ると、暗闇の中に取り残されたような孤独感が包み込んだ。だから、退院して連れて帰ってからすぐ居なくなってしまったんだね。
あぁ、俺はまた何も知らずにのうのうと生きていたのか。深い傷をさらにえぐられる気分だった。過去の出来事を振り返り、自分が何も知らずに過ごしてきたことに対する悲しみと後悔が胸に広がるのを感じた。静まり返った雰囲気が漂い、その胸中の葛藤が空間全体に広がっていく。ただ、俺たちの名前を憶えていてくれたことは少し嬉しかった。ずっと俺たちを呼んでいたんだね。
 
「そうと分かれば、元の世界に戻るだけだ!俺たちは強い絆で立ち向かえる!」俺は決意を新たにし、言葉に力強さが宿った。言葉が部屋に響き渡り、俺たちの絆が周囲の空気を満たす。もう一度、パズルを眺める。この文字にもし意味があるなら、俺たちに関係する事のはずだ。
「ア」のパズルを手に持ってみる、「ヴィ」も持ってみる、だが何も浮かばない。はるは「ラ」と「ナ」を持った。二人が持ったパズルを見る、そして俺は残った「マ」「ル」「ヴォ」「レ」を見た。
「マルヴォレ、、ヴォレマル、あっ、マレヴォル」
そして遙も文字を並べる。
「アヴィラナ、ラナヴィア、あっ、ラヴィアナ」
そして次の瞬間、黒い悪魔は黒い光を、白い悪魔は真っ白な光を帯びたように感じた。

「マレヴォル」
『ラヴィアナ』

二人の言葉に悪魔たちが共鳴する。
時の本がガタガタと震えだしページが勢いよく開き、中からたくさんの黒色と白色の光がまるで花火のように四方八方に飛び回る。
時の本が動き出し、その光景は部屋全体を包み込む。光が壁を跳ね返り、明るく照らされ光が喜びの舞を踊っているようだった。
 
「そうか、そうだったんだ。俺は君をマレヴォルと名付けたんだ」そして遙が言う「俺は、ラヴィアナと名付けた」あの時の呪文「ル・ヴォレマ・ナア・ヴィラ」これは、悪魔たちの名前を逆さまにしていないか?じゃぁ、この世界を消滅させるには、正しき言葉を!!」前夜祭のように光が二人の回りを飛び回る。

遙と悪魔たちと目を合わせ、パズルを一つずつ台座に並べて置いた。そして俺たちは時の本に手をかざし、その煌めく光の中に身を置いた。手が本の表面に触れると、更に無数の星が天空に輝くかのように、強い光が彼らを包み込んでいった。すると向こうの柱の奥から少女が現れる。黒い髪の少女とその少女の後ろに隠れているのは白い髪の少女だ。そして黒い髪の少女が二人に問う。

「私は、時の本の主である。この世の均衡を保つ者だ。そして、この世界は時の本の中にあり、時の法則が支配し、全てが収束されておる。私たちは力を使いすぎた。このままでは本が喰らってきた憎悪を世界に散りばめ、闇に染めてしまう事だろう。それを止めるには、この本を消滅させるしか手立てがない。呪文を唱えることで、本の力を解き放ち、さすればこの世界は解放される。だがそれは、悪魔も解放されるということだ。もし悪魔が、理性を保てなければ、世界を消滅させてしまうかもしれぬ。自分の中に住む悪魔を認めなければならぬということだ。嫉妬や妬み、憎しみ、葛藤や怨恨、それらを受け止め前に進まなければならぬ。辛いことも悲しいことも、全てを。だがそれは、悪ではないということを、知らなければならぬ。その覚悟はお前たちにあるのか。」白い髪の少女も口を開いた。
「あなた方の心の中にある迷いは、理性をなくす時が来るかもしれません。逃げたくて怖くなるかもしれません。それでも、立ち向かえますか」
俺たちの心にある闇・・・

はるの心】
5歳の時、家族を事故でなくして俺だけが助かった。俺だけ生きてたって家族は帰ってこなくって、喪失感だけが俺の心を支配していた。何のために生きてるんだっけ、なんで俺だけ助かったんだろう。その問いだけが心の中で渦巻いて、そこから抜け出せなかった。俺にはじいちゃんがいるのに、その現実を受け入れずに逃げていたんだ。大きくなった時翔ときとを見た時は、この世界でずっと暮らしたいって本気で思った。時翔の成長を間近で見たいって。そんな俺の心を見抜いている時翔は、最後「兄さん、僕は兄さんの弟に生まれてよかったよ。」って俺の中で止まっていた時間が動き出した気がした。時翔ありがとう。兄さんは時翔の自慢の兄になれるように前を向いて歩くよ。
 
颯空そらの心】
じいちゃんが自分のせいで死んでしまったことを、知らずに生きてきた事への罪悪感はぬぐえなかった。こっちの世界で黒い悪魔が出て来た時、じいちゃんは俺を守ろうとしてくれた。どんな世界線に居たとしても、じいちゃんは家族を守ってくれるんだろうな。俺はずっと、じいちゃんと一緒に居たいと願っていたんだ。それが本当の俺の気持ち。ずっと5歳のまんま、俺の時間は止まっていたのかもしれない。こっちの世界に来てじいちゃんと過ごせて、俺はこのままでもいいかもって思ってしまったんだ。大好きなじいちゃんと一緒にずっといたいって。俺の中に居た悪魔とは、過去ばかり見て、現実に向き合おうとせず、逃げていた弱い心だったんだね。じいちゃんが居ない世界を受け入れられず、悲壮感に蝕まれ自分を見失っていた。やっと気付けたよ、俺は俺だ。じいちゃんのことが大好きな颯空だ!ありがとうじいちゃん。俺はじいちゃんのように優しく、家族を守れる存在になるから見ててね。
 
俺たちは過去にとらわれすぎていた、でも今は大丈夫。俺たちの心は決まった、止まった時を進めるときが来たんだ。俺と遙は悪魔の目をしっかりと見据えた。

「もしお前たちが暴走したそん時は、俺たちがなんとかしてやるよ!」

黒い髪の少女は、白い髪の少女の手を取り、俺たちの手の上へ手を重ね、優しく頷いた。そして、遙と俺は生命のすべてを込めた声で呪文を唱えた。
 
「ラヴィアナマレヴォル」
 
その声は部屋の隅々まで届き、壁に反響して響き渡る。その瞬間、俺たちは過去の傷を乗り越え、未来への希望を込めて唱えたのだ。


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