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時計の契約:第3章12時

12時:時の魔法書

はるの世界】
ここんところ寝てもすぐに目が覚めてしまう。体が昨日より確実にだるくなっていくのを感じていた。今日もなかなか眠れなくてぼーっと天井を見つめていた。だんだん瞼が重たくなって、夢と現実の狭間で意識がふわふわしていると、遠くから誰かの声が聞こえる気がした。
「兄さん、兄さん」誰かがお兄さんを呼んでいるようだ。その声はだんだんと大きくなり、ついには耳元で
「兄さん、兄さん」と肩を叩かれた。振り返るとそこには見たことがない少年が立っていた。俺には弟はいないんだけど。弟?まさか時翔ときとなのか?!スラっとした手足と母さん譲りの色の白さで、きっと時翔が大きくなったらこんな感じなんだろうと思った。

「こっちだよ」時翔らしい少年が俺をどこかへ連れて行く。辺りは幻想的で美しい山や川などがあちこちにあり、とても穏やかな空間だった。少年は石碑の前で立ち止まった。そこには魔法書のような古びた本が置いてあり、これはゲームと同じ世界であることに気付いた。表紙には錆びた金色の文字で「時の本」と描かれていた。その中心に時計が描かれており、針は12時を差していた。おもむろに本を手に取った。古びたページをゆっくりと開く。開くには、すごく重たくて力を込めて開けた。するとまばゆい光が四方八方に放たれた。そして少年が言った

「ル・ヴォレマ・ナア・ヴィラ」

俺は反射的に「時翔、待って時翔!!」と叫び手を伸ばした。
だが、次に目を覚ましたのはベッドの上で無機質な天井を眺めていた。あまりにもリアルな少年との会話に胸の高鳴りが耳にまで響いてくるようだった。あの本は見たことがある、確かじいちゃんの部屋だ。俺は走ってじいちゃんの部屋のドアを開けた。
じいちゃんはリビングに座っていた、慌てている俺を見てじいちゃんもどうしたんだとやってきた。じいちゃんの部屋にあった本のことを話すと、その本はずいぶん前に紛失したと聞かされた。そこで俺は夢の話をした、時翔のことも。じいちゃんは優しく肩を撫でてくれる。きっとまた悪い夢でもみたんだと思ってるんだと思った。俺は頭を抱えて座り込んでしまった。時翔が何か伝えようとしてくれているのに。そして俺はハッとした、時翔が俺に言った言葉を思い出す。

「ル・ヴォレマ・ナア・ヴィラ」

急に部屋の気温が下がったような気がした。酷く冷たく喉の奥を刺すように息がしずらい。すると、突然目の前に本が落ちてきたので慌てて受け取った。本を中心に真っ黒く重たい空気が部屋中を渦巻いているのが見える。
「また、呼、んで、、くれた、、、ぁ?」
本の中から現れたのは真っ黒い悪魔だった。なぜだか知っているような、どこか懐かしさを感じるようなその顔は、不気味な笑みを浮かべて笑っていた。そうか、知っているぞ。この空気、見たことのある顔、あの時の声。時翔との会話、5歳の誕生日、俺の頭の中のピースが揃う。するとじいちゃんが悪魔の前に立って俺をかばってくれた。
「わしが守ってやるけんなぁ」
あぁじいちゃん、やっぱりじいちゃんはいつだってかっこいいなと心底思った。

頭の中のでフラッシュバックする記憶、5歳のあの日、悪魔がじいちゃんを喰らったこと、じいちゃんのいない世界で生きていた俺は、この世界に憧れていたんだ。じいちゃんのいる、夢のようで夢じゃない世界に俺は今いるんだ。そう思うと嬉しさがこみ上げてきた。そして俺がこっちの世界に来たときのこともはっきりと思い出した。この世界に来る前のことも。でも、俺も食われていたはずだけど俺は世界が変わっただけなのか?疑問は尽きなかった。俺はじいちゃんの横に立ち、「じいちゃん、大丈夫だよ」って伝えて、悪魔に聞いた。
「俺は誰なんだ」じいちゃんがどいうことなんだと言わんばかりに俺を見つめる。悪魔は首をかしげて答える。
「そらは、、そら、、だよぉ、、、」
これで合致した。俺は颯空そらで、どうやらじいちゃんが生きている世界線に来ているようだ。


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