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時計の契約:第2章6時

6時:時の幻影

意識が徐々に夢の世界へと引きずられていった。夢と現実のはざまを行き来しているさなか、部屋の空気が一瞬変わったように感じた。心臓が急速に鼓動し始め、何かが俺の回りを静かに、重く漂っている気配を感じた。そして再び、あの不気味な声が聞こえてきた。
 
「そ、ー、、ぉ、、ら、ー、、ぁ、、、」
 
ギュッと目をつぶり、声を無視しようとした。俺には聞こえなていないかのように、だがその存在感はますます強くなり不安を煽ってくる。内なる混乱が再び襲ってきて、息が詰まりそうになった。必死で呼吸を続けようとするが、その声を振り払おうとしてもその声はかたくなに心の奥深くに居座り続ける。やがて、意識が薄れ眠りに落ちていった。不穏な感覚は夢の中にも影を落としていた。
 
ここはどこだろう。家のようでそうじゃない気がする。
「兄さん、5歳の誕生日のことを覚えてる?」誰かの声がする。
「全然思い出せないな」俺が話しているのか?
「僕もあまり覚えていなんだけどね、夢を見るんだ」君は誰だ?
「どんな」あれ、この会話は・・・。
「兄さんの5歳の誕生日に本が光って、兄さんが消えたんだ」君は時翔ときとなのか?
「何それ」嫌だ、聞きたくない!!
「そしたらさ、本から真っ黒い悪魔が出てきてじいちゃんと話をするんだ。それから悪魔はじいちゃんを食べるんだ。父さんも母さんも覚えてないっていうから、やっぱり夢なのかもしれないんだけどね」
 
俺は必死に夢の中の時翔に話しかけようとするが、手も口も動かせない。まるで、これは変えられない現実なんだと無言の圧力のように感じられた。大きくなった時翔の顔と声に喜びを覚えつつも、信じがたい出来事に混乱している。それと同時に、このまま夢から覚めることも理解した。
「まって、時翔!ときと!ときと!!」なんとか声を出そうともがいたが、どうもうまくいかない。それはなんの意味もなさなかった。

深い眠りから目を覚ますと、ちょうどじいちゃんが起こしに来たところだった。体を起こそうとすると、断片的な記憶が頭をよぎった。真っ黒な悪魔、光り輝く本、そしてじいちゃんが消える様子。夢なのかどうかももはや分からなくなってしまっていた。それくらい混乱に囚われていた。だって俺の5歳の誕生日は父さんと母さんと時翔が事故に遭ったのが事実なのに。この記憶はなんなんだ。様子がおかしい俺をじいちゃんは優しく見守る。
「また怖い夢でもみたんかぁ。大丈夫、じいちゃんが守ってやるぞぉ」じいちゃんの顔を見て俺は少し安堵する。
寝不足か悪夢のせいなのか体が鉛のように重たい。夢と現実の境が曖昧になっていくのを感じた。


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