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時計の契約:第1章3時

3時:悪魔の涙

太く低い、耳にまとわりつく、悪魔の途切れ途切れの声が部屋に響く。
「いただ、きまー、、、すぅ」獣のように額から突き出た大きな角と、悪魔の鋭い眼光は、まるでこの世に怖いものなんてないかのように瞬きもせずただまっすぐに見つめている。俺を喰らっているのが感覚で分かった。俺は食べられている。でも不思議とどこも痛くなかった。悪魔と目が合っているが俺を見ていない、何を見ているんだお前は・・・。

悪魔は俺の怒りと憎悪に満ちた視線を受け流し、ずっと不気味な笑みを浮かべていた。口元からは異様なまでの静寂が漂っていた。だが突然、悪魔の顔が引きつり、目から涙がこぼれ落ちる。その光景に困惑し、悪魔との間に生じた不思議なつながりを体が本能的に感じながら悪魔の目を見つめた。悪魔の涙が内なる混沌と共鳴するようで、俺の中に流れてくる。混沌とした感情が、心の奥底に渦巻いていた。なんでお前が泣くんだ。泣いている悪魔を見て悲しみが心にまとわりついてくるように俺の目にも涙が溢れた。あれ、なんで泣いてるんだっけ、この涙もその涙もなんの意味があるんだっけ。

俺は、激しい頭痛とめまいに吐きそうになった。ただこの感覚はどこかで感じたことがある。あの日もこの感覚で意識が飛んだんだ。5歳の誕生日、体中の細胞をかき乱すかのようなこの感覚が・・・。胃が浮き上がって俺を苦しめたんだ。不穏な感覚が広がる中、部屋の中に張り詰めた空気が更に重たくなるのを感じた。窓から差し込む月明かりが、部屋を漆黒の闇にくっきりとわかる。部屋中に張り詰めた空気が、静かに緊張感を高めていった。俺は不安と混乱に囚われたまま、意識が暗闇に沈み込んでいく。頭の中は暗い迷宮に迷い込んだようで心臓は不規則に跳ね、寒気が背中を這いまわった。このままでは俺が俺でなくなってしまうような、ふわふわした夢のような心地だった。
”俺”が頭の中に入ってくるような、吐き気がするほど不快な感覚が続く。だが、その静寂は突然破られた。


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