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時計の契約:第1章4時

4時:目覚めの朝

[はるの世界]
眩しい光とともに、遠くから優しい声が響き渡る。
「はるー、はるー」朝日が眩しくまるで天使に包まれているような光が降り注いでいる。その声は親しみや安らぎをもたらすような声だった。だが、俺の心にはまだ不穏な感覚が漂っている。その声の正体を知りたいが、混乱と不安がまるで殻の中に閉じ込めるように瞼を覆う。ここはどこなんだ、と不安と恐怖の感情が交互に揺さぶって来る。
 
優しくおおらかな声で「遙、ここで寝とったら風邪ひくぞぉ」と、聞き覚えのある声にようやく目が開く。朝日が窓から差し込み、まばゆい光が部屋を満たす。とても長い眠りからようやく目が覚めたかのように、体中がけだるかった。手足を猫のように伸ばし全身に血液を流す。
「じいちゃん、俺なんかすごく怖い夢見よった」声が小さく震える。その言葉にじいちゃんは微笑みながら「それは怖かったなぁ」と答えた。昨日の記憶をたどるが、どうしても思い出せない。いつの間にかソファーに寝転がり、時間の経過も曖昧なまま、夢を見ていたようだ。昨日どころか、今まで何をして生きてきたのかを忘れているんじゃないかと思うほど、頭がふわふわしている。自分が何者なのかと心配になるほどに。

リビングの中には、いつもの穏やかな日常がそこに広がっている。だけど、その中に漂う寂しさがなぜか心をかすめる。じいちゃんが笑っているのにも関わらず、どこか虚しさを感じる。何か大切なことを忘れてしまっているような・・・なんだっけ。その疑問が頭をよぎったが、その答えは見つからないままだった。
「そ、ー、、ぉ、、ら、ー、、ぁ、、、」なんだ、何か聞こえる。耳に響くその声は、深い谷間から湧き上がるように聞こえてきた。懐かしささえ感じる不気味な声が頭の中に響いてくる。その声はまるで何かを訴えかけているように悪魔のような不気味さで泣いているように聞こえた。不安と悲しみをぐちゃぐちゃにしたようなその声は耳をふさぎたくなった。不快感でいっぱいになると同時に、それがなんだったのかを思い出そうと必死になっている自分もいた。不安と好奇心で揺れ動く。ふと、昨日の話を思い出し口を開く。

「じいちゃん、昨日さ、時翔ときとがさ、変な話をしてきたんだよねー。じいちゃんが悪魔に食べられるって、笑えないよねー」じいちゃんは少し驚いて、心配そうにのぞき込んできた。


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