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孤独の勇者:最終章 新たなる絆

最終章:新たなる絆

フクロウのシエーネの歌が犬たちの目覚めを教えてくれて、ルークたち急いで向かった時には、犬たちはひれ伏して待っていた。完全なる服従の格好にテオドールが声を上げた。
「お前たちが父をやったのか」太く低い声に、犬たちは耳を垂れ顔を上げず答える。
「わしが一人でやりました」若い2頭の犬がリーダー格の犬に何か言いたげに見つめるが、リーダーの犬はひれ伏したまま頭を上げない。「わしらは森の動物を餌だと教育されました。何の言い訳もございません、煮るなり焼くなりしていただいて結構です。どうか若いこいつらだけは勘弁してください。本当に申し訳ございませんでした」丁寧にそして力強く言葉を発するリーダーの犬を見て、2頭の犬は横やりをいれることを許されないことを十分理解していた。2頭も頭を下げ、覚悟はできていると静かに目を閉じた。

テオドールはルークに言う「お前の森だ、お前が判断しろ」ルークは森の仲間たちが見つめる中、慎重に言葉を選ぶ。
「父さんのことは許せない、森を襲ったことも許せない。だけど、育った環境はとても大事だ。そこで何を学び何を選び、何を信念として生きていくのかは自分の意志で決定するべきだ。」
ルークは狩人と犬たちの関係を考えていた。あれほど信頼し合っていたように見えたのに、犬たちを見捨て帰ってしまった狩人。仲間をやられても狩人を助けようとした意志、そしてリーダー犬の涙。彼らは彼らの正義あっての行動だとルークは感じていた。種族は違えど、仲間を守ろうとする行動を尊重したいと思った。

犬は声を震わせ、声を振り絞る。
「こんなにも、迷惑をかけた身分で、言える立場でないことも、十分承知している。もし、許されるのなら、わしは、あいつの元に戻り監視したい。もう森に迷惑をかけないように。それが我らの宿命だと思っている。わしらは元々、サーカス場で生まれた。ろくにご飯も与えられず、毎日殴られ命がけの芸をさせられていた。それでもここにしか居場所がなかったわしらはただ生きていくことしかできなかった。だが、たまたま酔いつぶれた団長が、扉を閉め忘れていた日にわしらは必死に逃げ出した。逃げたところで行く当てもないわしらは、死にかけて横たわっていたところあいつが見つけて、拾ってくれた。ガリガリで何もできなかったわしらに、狩りの仕方を教えてくれた。わしらが生きていく術を教えてくれた、その恩をわしらは忘れておらん。」

一番ちっこい犬が続けて話す。
「あいつは興奮すると何をしでかすかわかんねぇっす。だけど、あいつには友達がいないんすよ。いるのは俺らと、言葉を話せない息子だけっす。あいつは、結構いい奴なんす。ご飯腹いっぱい食わせてくれるっすよ。」
「村でどれだけ邪険にされても、いいように使われても、村の為だと言って狩りに行く。どれほど危険だろうと、村の為に働く。影でコソコソ言われてもあいつは必ず笑顔で、村のためどんな仕事も買って出る。その姿をずっとみてきたからこそ、あいつのそばで役に立ちたいと願う」中堅の犬が傷の痛みに耐えながら訴えた。ルークは静かに犬たちの話を聞く。まるで自分事のように、かつての自分を労わるように。
「みんな、ちゃんと自分の意思と信念があるんだね。僕は君たちの意思を尊重したい。そうしよう、いやそうするべきだ!」森の動物たちは歓声を上げた。犬たちは深く頭を下げた、涙を見せないように。みんなが認め合うこの空気がルークは嬉しかった、自分の意見もまかり通らない環境がどれほど辛く、惨めなものかをよく知っていたから。

昨日の敵は今日の友達だとまた子ウサギが踊っている。その姿を見た森の動物たちは、犬たちに暖かな言葉を贈る。
「昨日の敵は、今日の友達!昨日の敵は、今日の友達!」 

***

もうすぐ大雨が続くことを、鷲のウィンが空からテオドールに叫んでいる。テオドールはルークに最後にもう一度問う。
「ルーク、俺たちは森に帰る。お前はどうしたい?」テオドールはルークに共に来てほしいと願っている。父も母も家族もなくし、仲間たちと一から群れを作った。もう家族がバラバラになることを何よりも怖がっているのはテオドールであった。ルークはかつて群れで楽しい日々を過ごしていたことを思い出す。
「僕は、この森でウサギになることに挑戦したんだ。僕も森の住人として認めてほしかったから。ただ友達を作りたかったんだ。だけどその夢は叶わず、僕は孤独で生きることを選んだ。だけどそれは、理解してもらうことを放棄して、自分の想いだけを押し通してきた結果だったと今は思う。皆の不安に耳を傾けることもせず、被害者面してたのかもしれない。なんで僕はいつもこんなに言われちゃうんだってずっと考えてたから。僕はもうウサギになりたいとかリスになりたいなんてもう言わない。僕をわかってもらったら、ちゃんと友達出来たから。自分のアイデンティティを壊してまで誰かになろうとするのは間違っていた。僕は強くて優しい狼なんだ。誇りをもって生きていくことが、僕にとっての正しい道なんだ。だから兄さんごめんなさい、僕はこの森でみんなと暮らしたい」 
 
テオドールはルークの話を聞き、静かに頷いた。その目には誇りと安堵が浮かんでいた。
「ルーク、お前は本当に強くなった。自分の道を見つけたんだな。俺は、そんなお前を誇りに思うよ。」テオドールの声は温かく、そしてどこか寂しげだった。
「でも俺たちは、もう一つの家族だ。お前がどんな選択をしても、俺たちはお前を支える。だから、ここでもっと強くて優しい狼として生きてくれ。そして、俺たち兄弟がいつでも支え合えることを忘れないでほしい。」
 
ルークは兄の言葉に胸を打たれ、深く頷いた。「ありがとう、兄さん。」
「それでいい。お前の決意を尊重する。俺たちはいつでもお前の味方だ。」テオドールはルークの肩に手を置き、微笑んだ。その時、空を旋回していた鷲のウィンが地上へ降り、天気の変化を知らせた。「大雨がもう来る、さぁ出発の時間だ」ルークとテオドールと犬たちは円陣を組んで誓い合った。
「俺らは強い、また生きて会おう」ここに新たな家族が誕生した。

テオドールの群れは西の森へ、犬たちは狩人の元へと向かった。またいつか会える日まで。ウィンは翼を広げ力強く地上をけり飛び立つ。「ルーク!お前は勇敢で優しい狼だよ」そう言いながら空高くへ飛んで行った。「ウィン!また会えるよね」「また会えるさ」ウィンは西の空高くへ消えていった。森の動物たちはまるでお祭り騒ぎのようにみんなを盛大に見送った。またいつか会える日まで。
 
僕たちの物語りはここから始まるのだ。


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