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ハリー・ポッターと翻訳への愛を語る

ハリー・ポッターと号泣する私

ハリー・ポッターと賢者の石。初めて読んだときの衝撃は忘れられません。

小さい頃からいろんな本を読んできたけれど、このシリーズほどワクワクし、大好きなごはんや寝る時間も惜しくなるほど引き込まれた本はなかった。新巻情報を目にしたその日に本屋さんに予約の電話を入れ、発売当日は期待に胸をときめかせながら全力で自転車をこいだっけ。最終巻を読み終えたあと、もう続きが読めないのが悲しくてページの白い空白を見つめ泣いた本も他にありませんでした(笑)。

もちろんシリーズ全巻揃えて大切にしていたけれど、10年前に兵庫の実家においてきてしまってから読む機会はなくて。

ですが最近、ひょんなことから賢者の石のスペイン語版オーディオブックを聞き始めたのです。

やっぱり最高に面白いですね。聞くたびに魔法の世界の中に引き込まれテンションが上がりっぱなしなのですが、同時にボロボロ涙が出て止まらないんです。あのリー・ジョーダンの活気あるクィディッチの試合中継を聞きながら号泣です。完全にヤバい人です。

もちろん悲しくて泣くわけではなく、なんというかもう、完璧に作り上げられたこの作品の空気感、まるで本当に生きているようにイキイキした登場人物の息吹や存在感、そういう情景がありありと浮かんで。それを映像や音の力に頼らず「文字の羅列」だけで作り上げてしまったローリング女史の才能と努力、素晴らしさ、イマジネーション…その全てに敬意を感じすぎて感極まってしまうんですね。ますますヤバい人です(笑)とにかく、これはものすごい愛をもって紡ぎ出された物語で、だからこそ本作品は児童文学というジャンルを飛び越え世界中の老若男女を魅了したんじゃないかなと思うのです。

そしてスペイン語版を聞きながら、日本語版はここどういう風に訳してたっけかな〜なんて想像して気づいたのですが、やっぱり私にとってのハリー・ポッターの世界観は松岡佑子さんの翻訳なしには語れないんですよ。

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翻訳が紡ぎ出す物語とは何か

わたしはつい最近自分の肩書に「翻訳家」を追加することにして、本職の傍らプロの翻訳家としてお仕事をしていこうと決めました。今はnoteを書いたり、オンラインゲームや書籍の翻訳のお仕事をしたりしています。

そして改めて翻訳家目線で日本語版ハリー・ポッターを読んでみたときに、あぁやっぱりすごいなってしみじみ思ったんですね。スネイプの一人称に「吾輩」を選んだこととか、かと思えば例の名シーンでLook at me を「僕」を見てくれ…と訳すとか……もうね、挙げるときりがないですけど、心から敬愛する素晴らしい翻訳だと思うんです。

ところが学術論文や実務翻訳といった厳密さ・正確さが求められる文脈では、翻訳というものが解釈上の誤解を生みうるハードルになることもあるでしょう。それはおそらく物語翻訳に対しても言えるところもあって、現に松岡さんの翻訳は「誤訳」とか「下手」と評価する人たちもいるそうです(超衝撃でしたが)。おそらくその方々は原作を読み、英語・日本語の細かい単語の整合性などを見てそう判断されているのでしょう。

でも私は、物語翻訳というのはもちろん原作を忠実に訳すことも大切だけれど、それを100%完遂するのは到底無理な話で、結局は翻訳というフィルターを通して原作とはまた別の物語を生むことなのかなと思っています。よく似ているけど違う、パラレルワールドみたいな感覚というか。そして、原作の魅力をできる限り手つかずの状態で残しつつも、いかにそのパラレルワールドの世界を美しく彩るかということに翻訳の面白さがあり、それこそが翻訳者の腕の見せどころなのかなぁと思ってるんです。

そして私は、松岡佑子さんが生み出してくれたハリー・ポッターワールドが大好きでたまらないのだなぁと実感したのでした。

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夢を叶えるために、目の前の仕事に全力を尽くす

今回ちょっとリサーチして驚いたのですが、松岡さんはずっと通訳としてご活躍されていた方で、ハリー・ポッターシリーズはなんと彼女初!!の文芸翻訳作品なんだとか!出版社の静山社も、もともとは元ご主人が興した小さな会社だったそうで。

そのご主人が亡くなり松岡さんがその跡をついで社長になられてすぐ、ご友人を介して「賢者の石(当時イギリスで話題になっていた)」の存在を知り、ローリング女史に直接お手紙を書いて出版権をゲットしたんだそう。なんかすごく素敵というか、運命だったんだなぁと思います。

わたしもいつか彼女のように、世界中の人を魅了する小説の日本語翻訳版を出したいという夢があります。そのためには超有名な出版社に勤務していなければいけないとか、翻訳界の大御所になってないとだめとか、そんなことは必ずしも必要ないんだよってメッセージをもらった気がしています。

縁あって巡ってきた仕事にいつも真摯に向き合い、全力で取り組んで実力を高めていればやがて大きなチャンスと幸運がやってくるのかもしれません。そう信じて、私も目の前の仕事に全力を尽くそうと思います☺そしてハリー・ポッターシリーズをもう一度読み返そうかな✮

最後に、私の大好きなハグリッドの名言を─

“くよくよ心配してもはじまらん。来るもんは来る。来た時に受けて立ちゃええ” (ハリー・ポッターと炎のゴブレットより)

それではみなさま、良い週末をお過ごしください。

Kana

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