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きゅうりサンドの話

夏に食べたくなる朝ごはんがある。

それは「きゅうりサンド」。


奥さんが初めて

「きゅうりサンドでもつくってあげようか?」

と言った朝、私は

「なんてそそらない響き…」

と思った。

ハムはないの?たまごはないの?うちって貧乏なの?

奥さんは、美味しいんだから、とちょっとおかんむり。

その言葉を信じて、あと、自分でご飯を温めて納豆をかき混ぜる手間を惜しんで、貴重な朝ごはんの一食をきゅうりサンドにゆだねることにした。

あっという間にきゅうりサンドは完成した。

初めてきゅうりサンドと相対したとき、私は

「名前に負けず劣らず、そそらない見た目…」

と思った。

斜めにスライスされたきゅうりが魚の鱗のように並べられ、マヨネーズがかけらてただけのトーストが目の前にあった。

(昨日もまた食べた、実際のきゅうりサンド)

なにこれ。

もはやサンドすらされてないじゃん。ただのきゅうりパンじゃん。

千切りにしたきゅうりが少量のツナか何かと和えられ、サンドイッチになっているもの、くらいは出てくるだろうと踏んでいたが、見事に裏切られた。

奥さんは、オープンサンドって言うのよ、とかオシャレな感じで言っていた。

なんだよオープンサンドって。

インナーテラスかよ。Mr.Childrenかよ。生きた化石かよ。

朝ごはんを作ってもらった恩も忘れて不満たらたらな私だったが、一口食べて評価は一変した。

美味い。

めちゃくちゃうまい。

きゅうりなんて、味もへったくれもないと思っていたが、ちゃんと味わってみると爽やかで野趣あふれる美味しさがある。

千切りにするよりも薄切りの方がきゅうりの歯ごたえも楽しめ、冷たいきゅうりとあたたかいトーストのコントラストも楽しい。

トーストにはしっかりバターが敷かれており、マヨネーズといっしょにきゅうりの味わいを引き立てている。

コーヒーと一緒に食べると、それはもう実にご機嫌な夏の朝ごはんだった。


この一件を通して、私はきゅうりのことをだいぶ見直した。

「きゅうりは世界一栄養のない野菜としてギネスに登録されている」

という噂をずっと真に受けていたが、調べてみるとこれは

「もっとも熱量(カロリー)が低い果実」

として登録されているのが間違って広がっていただけらしい。

実際はカリウムやビタミンB1等が含まれているのに。

かわいそうなきゅうり。

そんなきゅうりにスポットライトを当てるメニュー、「きゅうりサンド」をこの夏皆様もぜひ。

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