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ミュージカルが教えてくれた #01

昨今、ニュースで多数取り上げられるようになった黒人差別問題。これほど大きく問題視されるのは、私が今まで生きてきた二十数年間で初めての事のような気がする。ようやく世界全体でこの問題に向き合うべき時代がやってきたのではないだろうか。

私は5年前に『Memphis』というミュージカルの日本人キャスト版を観劇した時から人種差別やブラックミュージックの歴史にとても興味を持つようになった。今でもふと思い立つとGoogle先生にお世話になって色々と調べ出すくらい、自分にとって向き合うべき問題だと脳にインプットされている。

それもそのはず。『Memphis』をはじめて観劇して感じたエネルギーやメッセージは多大なるもので、私は心に10万ボルトをくらったかのような衝撃を受けたのだから。(ピカチュウもびっくりである。)その10万ボルトの衝撃が、黒人差別問題と向き合うきっかけを与えてくれたというわけだ。 
この作品は、ずっしり重いテーマが根底に在りながらも、音楽とダンスがそれをオブラートに包んでくれているから感覚的に理解しやすい。
劇中の歌・ダンス・お芝居の割合をみてもかなりバランスが良く、素晴らしい舞台なのだ。

こんなにも私が絶賛するミュージカル『Memphis』は一体どんな作品で、一体どのようなかたちで人種差別問題を感じさせてくるのか、また、歴史を未来にどう活かすべきか…そういった事を考えながら、ここから先の文をできるだけ丁寧に続けていこうと思う。珍しくも今回の記事はピカチュウのくだり以外完全真面目モード。ここからは真剣に。

さて。舞台となっているのは、黒人と白人の間に絶対的な壁が存在した1950年代のアメリカ。(テネシー州にある都市、メンフィス)その町に住む、"ブラックミュージックを愛する白人男性"と"歌い手として広い世界へ羽ばたきたい黒人女性"がそれぞれの状況下で人種差別を受けていた。白人男性の方は、愛するブラックミュージックに触れるために黒人の集まる場所に入り込もうとするも黒人に拒絶され、黒人女性の方は、夢を叶える為に外へ踏み出そうとするも白人が支配している外界では夢どころか人権すら与えられない。状況は違えど二人とも人種差別に遭っている。  
ラジオで素晴らしいブラックミュージックを流して広めたい白人の彼と、歌手として歌うチャンスを掴みたい黒人の彼女…
物語は、そんな二人をブラックミュージックが繋ぎ、互いに二人の夢を一つにして実現させ、そして二人は愛し合い、でもやっぱり結ばれることは難しく、各々新たな人生を歩みはじめる…というまあザックリとこんなかんじの流れ。  
二人の恋は世間から見ればタブーであるということは観ているこちらも解るから、惹かれあってゆく過程を見守りながらどんどん苦しくなる。
二人の間に立ちはだかる壁がどんどん巨大化していくようにさえ感じてしまう。

この作品には、他にも実際に差別による暴力・殺人を目の当たりにして恐怖につきまとわれながら生きる黒人の青年や、ブラックミュージックを聴いていただけで父親に頬を引っ叩かれる程に自分が好きなものを親に認めてもらえない少女など、白と黒の狭間で苦しむ人々の姿がある。   

さあ、皆さんお気づきだろうか。この記事を書きはじめた時に提示した"黒人差別"という言葉が気がつけば"人種差別"という言葉にすり替わっていることに。そう。確かに事の発端は白人側による差別なのかもしれないが、暴力を受けずとも先入観だけで黒人に拒絶される白人だっているわけで…それはやはり差別なわけで…結局白人も黒人もどちらも何らかの差別を受けている可能性があるということになるのだ。

"黒人差別"という言葉を使うとどうしても黒人の苦しみばかりに目がいってしまって白人全員が悪者にされてしまわれがちだが、憎むべきは白人という人種ではなく差別という文化そのものなのだなぁと、この作品はそんなことを考えさせてくれる。  

わたしは観劇中、随所で差別問題を感じさせるメッセージが自分の心をめがけて弓矢のように飛んでくる印象を受けた。
それは、ブラックミュージックという名の音楽に乗って力強く突き刺さる魂のうたであり、私には慎ましくもダイナミックな心の声のように感じられた。

50年代当時のメンフィスと言うと、第二次世界大戦を境に黒人に対する扱いの酷さが若干緩和されはじめたような状況。白人の生活は圧倒的に豊かになっていく一方、黒人の大部分は極貧のままであったが、黒人ビジネスや黒人労働組合の増加により すこーしずつ黒人が立ち上がることができていた…というなんとも中途半端な時代なのである。黒人が奴隷として働く時代は終わっていても、格差はまだまだ縮まっていないし"黒人が生きづらい時代"がまだまだ続いていたのだ。
社会的に立ち上がって頑張れるとは言っても、黒人がそうして生きていける場所には黒人しかいない。 
つまり黒人は、隠されたもう一つの世界に生きているようなもの。白と黒の境目は消えないまま。

劇中でも折角音楽が黒人と白人の境目を無くしかけてくれたのに、人々の血に潜んだ嫌な歴史はなかなか塗り替えることができない。     
その証拠として、黒人女性は歌手としてチャンスを掴むことができても白人のテリトリーにはとても踏み込めず黒人として辛い思いや怖い思いをしている。
劇中のシーンのひとつで特に悲惨なものがある。 
それは、黒人女性がデートの帰り道に白人男性の集団に襲われて酷く暴力を受けた末に子供を産めない身体にされたという非常に残酷なものだ。 
彼女が襲われた理由は、ただ、黒人だから…。
とても黒人が安心して過ごせるような街の状態ではないのだと、彼女が心身に負った大きな傷を通して理解できる。

大昔いつからか生じた人種差別が先祖代々伝わってしまったが故のこの不平等な世間の状態は、私たちが生きる現代に至るまでも続いていると思うと本当にゾッとする。

アメリカで黒人奴隷制が制定された1662年から随分と時が流れて現在2020年。358年もの間、私たち人間は差別を完全に無くすことはできなかった。
果たして
差別がこの世から完全に無くなる時代はおとずれるのだろうか。 

正直なところ、個人的には"完全に無くす"ことは難しいと思う。例えば 私の思う差別の一歩手前は区別なのだが、この類いはイジメと同じく区別したつもりが差別に感じられてしまうなんてことにもなりかねない。受け取る側がイジメだと感じたらそれはイジメだと言うように、受け取る側が差別と感じればそれは差別になってしまうというやつだ。こうして考えていると、区別や差別、例に挙げたイジメも含めてこれら全ては人が生んだというよりもこの世界に常時漂っているグレーな空気みたいなものであって、そんな厄介な空気のなかで私たち人間がどう生きていくかが肝心な部分なのでは?という気がしてくる。

人生経験まだまだこれからの私の意見としては、 
差別やイジメ、それに伴う自殺や殺害をひっくるめたグレーな空気を漂わせることで私たちの人間性を試そうと天から指令が降りてきてるんじゃないか。と。 
これまた少々スピリチュアルな匂いがする意見だが、究極はそこだと思う。

今もなお黒人が差別に苦しむ姿を天から眺めたらどう感じるだろうか。きっと、「あゝ愚かな人間達だこと」と感じるだろう。
意図的に誰かを傷つけることは何一ついい結果を生まないということに私たち人間はいい加減気がつかなければならない。今は多少他人事にも感じられるかもしれない日本人のような黄色人種もいつ差別の対象になってもおかしくない。人種差別はとてもセンシティブで難しい問題だが、このグレーな空気が全世界に充満してしまう前にどうにかうまいことカラーが変わっていけばと願うばかりだ。 

一つのテーマの中をぐるぐる回りながらこうしてスマホのキーボードをせっせとタップしたりスライドしたりを繰り返していたら、なんだか長くなってしまった気がするが、、、ここでそろそろミュージカル『Memphis』の劇中歌、colored of woman の日本語歌詞を引用。(黒人女性によるソロナンバー)

チャンスとかチョイスとか
自由さえ許されない
黒い肌の女にはそんなものはない 

ママが言った
壁がある
白い肌のためのこの世界には  

儚い夢を見ても
虚しい
馬鹿を見るだけ 
不意に現れた白い肌の男
馬鹿なくせに馬鹿な夢ばかり 

有名にしてやるなんて
この歌 聞かせるなんて 
また同じ ただの嘘つきなの?
でも もしかしたら 変えてくれる
私を  

ママは言った 
夢なんて無駄 
そして惨めな暮らし 
でも私は違う 強くなる 
見ててよママ 私のことを 

黒い肌の女にも
できることがある
私は
諦めない 

黒い肌の私が 
世界の色を 
変えてみせるわ!


私はこの歌詞に「ママが言った」「ママは言った」「見ててよママ」と"ママ"が何度か出てくるところを、なるほどなぁ。と自分なりに解釈した。 
ママとはつまり、信じられる存在の象徴でもあり時代(昔)を表すワードでもある。"ママの言うことはきっと間違ってないけど、それでも自分はママが苦しんだ時代から抜け出して新たな時代を生きたい"という強い思いを感じられるのである。

舞台の中の世界とはいえ、遥か昔50年代アメリカに生きた黒人女性がこんなにも世界を変えようと差別問題に立ち向かおうとした(当時はかなわなかった)立派な一歩を無駄にしてはいけないと私は思う。

2020年現在、ジョージ・フロイド氏の事件をキッカケに私たち人間がどんな色の世界を作っていくのか試されているに違いない。

私たちの言動、行いが、
グレーな空気の色を変えるかもしれない。 


❤︎最後まで読んでくださりありがとうございます。

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