詩 『不治の病 ~川べりの風景』

作:悠冴紀

かつて私には希望があった
同時に身勝手で冷酷だった

彼方の永遠を追うあまり
目の前の今が見えずにいた

不遇に見合う特別さを目指すあまり
平凡に見える恵みを軽んじていた

残り続けるものに執着するあまり
消えゆくものには目もくれなかった

そして多くを失った
何もないつもりでいながら
すでに手の内にあった掛け替えのないものを


警告など無意味だ
筋違いな敵意を集め
無駄に消耗するだけ

皆かつての私と
同じなのだから

彼らも誰も 愚かなのではない
私がとうに見失ったものを
まだ見失っていないだけ
今の私よりはずっとマシだ


沈黙を覚えてから
何年になるだろう

もう何も 語る気がしない
語る理由を見出せない


私は今
川べりに佇んでいる

人気のない水際に立ち
ただ無心に愛でる毎日

白んだ水面に踊る乱反射
水底に揺らめく黒い魚影
向こう岸に咲く一輪の花

言語を持たず
通じ合うこともない
永遠ならざるものたちの姿だ

何の解釈も必要とせず
流れては消え去る循環の世界

自分もまた その一部だ
産まれたときから
変わらず ずっと

掴み損ねてきた数多の時間を
今は取り戻すときなのだろう

私は今 不治の病にかかっている
希望という名の自己暗示の消失

元に戻す手立てはない
一度目が覚めてしまったら
二度とは見られない夢と同じ

唯一効き目があるのは
人里離れた川べりの対症療法
今まさにしていることだ

かつては気にも留めなかった
近くの儚き存在美
目的も意味も対話もない

それが切実に必要だ

もう何者とも
通じ合わなくていい

*********

※2021年1月作

注)この作品を一部でも引用・転載する場合は、「詩『不治の病』悠冴紀作」と明記するか、リンクを貼るなどして、作者が私であることがわかるようにしてください。自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たります。

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