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フリーランス問題で厚労省審議官と東京大学教授が規制改革推進会議WGで激論

規制改革推進会議「人への投資ワーキング・グループ」第6回会合が2022年(令和4年)4月15日にオンライン開催された。議題は「円滑な労働移動の実現に向けた環境整備と労働制度の見直しの方向性」であったが、フリーランスなど雇用関係にない働き方に関する問題についても議論された。


規制改革推進会議(第6回)人への投資WG

内閣総理大臣の諮問機関「規制改革推進会議」のワーキング・グループの一つに「子育て・教育・働き方ワーキング・グループ」があったが、このワーキング・グループが廃止され、新たに「人への投資ワーキング・グループ」が設置された。岸田政権となり「子育て・教育・働き方」から「人への投資」に看板が掛け替えられた。

なお「規制改革推進会議」は「内閣府設置法第37条第2項に基づき設置された審議会」「内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に関する基本的事項を総合的に調査・審議することを主要な任務」(内閣府サイト)とされている。

この「人への投資ワーキング・グループ」の第6回会合が2022年(令和4年)4月15日にオンライン開催されたが、議題は「円滑な労働移動の実現に向けた環境整備と労働制度の見直しの方向性」。

水町勇一郎東大教授が厚生労働省を厳しく批判

規制改革推進会議「人への投資ワーキング・グループ」第6回議事録(議事概要)が内閣府サイトに公開されたので、早速、読んでみると、「人への投資ワーキング・グループ」専門委員の水町勇一郎・東京大学教授(労働法)は フリーランスに関して経済法の議論ばかりで社会法、労働法では議論がほとんどない、労働者に当たるかどうかについて欧米に比べ日本では議論がない旨の発言をし、厚生労働省に問い質した。

厚生労働省の富田望・大臣官房審議官(職業安定、労働市場整備、雇用環境・均等担当)は「タマが降ってきてから検討しているわけではございません」と反論したが、さらに水町勇一郎・東京大学教授は「であれば、検討していると言うだけではなく、我々がこのように検討したらどうですか、こういう議論をしたほうがいいのではないですかというときに、検討の場をつくってこのような議論をしていますとか、具体的な議論の中身もお答えしていただきたい。そうしないと生産的な議論ができません」「もう少し危機感を持って、生産的に議論するためには、全体として、今、何をどう認識して、どういう方向で検討しようと思っているのかを、我々との間でも具体的に議論してほしい」と発言して、厚生労働省の怠慢を指摘した。

○水町専門委員
フリーランスのところで、独占禁止法等の経済法の観点と、労働法、社会保障法に関する社会法と大きく2つに分かれていて、今、私が認識しているところでは、政府は、経済法は、中小企業庁とか公正取引委員会に関する取引の公正さという観点から、新法で何かできることはないかと議論しているという話は聞いていますが、社会法、労働法に関するところでは、労災の任意加入制度、特別加入制度についての拡充は、部分的にはなされていますが、その他の点についてはほとんど議論がない。
実際、アメリカとかヨーロッパを含めても、諸外国で労働法上の最大の課題になっていまして、労働者に当たるかどうかについても、EUの指令案が昨年12月に出て、労働者と推定する規定をつくるという重大な議論が巻き起こっていて、アメリカでも、ABCテストを州法で採用しているところが増えています。
さらには、その中身の問題で、仮に労働者に当たらないところであっても、例えば職業訓練、教育訓練に対する支援をどうしようかとか、労働法、社会法に関するフリーランスのケアも政策的に非常に重要だということで、いろいろな議論とか法改正がなされるようになってきていますが、日本で蓋を開けてみると、ヨーロッパとかアメリカでいろいろな問題が顕在化して、少なくとも労働法、社会保障法でも議論され、制度が今、動いているところを、日本で厚生労働省の中で検討されているかというと、ちゃんと検討されていない、あるいはその検討の内容が外からは全く見えない状況です。今すぐにやるかどうかについてはいろいろとあると思いますが、きちんと検討して、諸外国でどういうことをやっていて、日本ではどうすべきかという議論。それが例えば今回のフリーランスに対する学び直し、教育訓練の機会を雇用保険制度でできないとすれば、雇用保険制度以外でどうするのか、求職者支援制度で今までやってきて、うまく機能していたのかということをきちんと具体的に議論することが大切だと思いますが、この点についても、十分な議論がなされていない。問題が検討されないまま、先送りになってしまうのではないかという危機感を私は持っています。以上です。

○厚生労働省(富田審議官)
水町先生、ありがとうございます。
経済法と社会法と2つありまして、現在、中心的に取り組んでいるのは、確かに経済法の分野であろうと思っております。
ただ、厚生労働省がその検討の一つに入っていることは、労働政策の観点からも、私どもも貢献できるのではないかということで入っているわけでございまして、できること、できないことは何かはまだ分からないわけでございますが、私どもも労働政策という観点で議論に貢献させていただいておりますし、タマが降ってきてから検討しているわけではございません。
私どもも、例えば諸外国でどのような制度になっているかについては、JILPTさんとかからもブックレットで出していただいたりしていますが、情報収集も随時行った上で、特別加入の話もございましたが、我々のほうでできることについては、検討させていただいているところでございます。

○水町専門委員
であれば、検討していると言うだけではなく、我々がこのように検討したらどうですか、こういう議論をしたほうがいいのではないですかというときに、検討の場をつくってこのような議論をしていますとか、具体的な議論の中身もお答えしていただきたい。そうしないと生産的な議論ができません。
もう少し危機感を持って、生産的に議論するためには、全体として、今、何をどう認識して、どういう方向で検討しようと思っているのかを、我々との間でも具体的に議論してほしいと思います。(規制改革推進会議・人への投資ワーキンググループ第6回議事概要より)

第6回 人への投資ワーキング・グループ議事概要(PDF)

水町勇一郎教授発言の背景にある厚労省検討会

フリーランスなど雇用関係にない働き方に関する問題については厚労省「雇用類似の働き方 に係る論点整理等に関する検討会」で議論されていたが、2020年12月に(突然)中断を余儀なくされた。

この検討会に水町勇一郎・東京大学教授は構成員(委員)として参加し、労働基準法など労働法における労働者性(労働者定義)拡大を積極的に主張していた、残念ながら水町教授の意見を厚生労働省は受け入れることはなかった。

その「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」の最後の会合は2020年12月に開催されたが、今年(2020年)1月にようやく公開された。

この議事録には、鎌田(雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会座長が「フリーランスとしては、政府としてガイドラインの策定を進めていくことになっていることから、フリーランスに包含される働き方である雇用類似の働き方を議論してきた本検討会については、ここで一区切りとしたいと思います」と発言したと記載されている。そして「私(鎌田座長)としては、ガイドラインの策定後も、その運用実態を見ながら、さらに検討を加えていくことが重要であると考えております」と続けている。

フリーランスなどの「雇用類似の働き方」問題は今後も議論しないといけない問題にもかかわらず、厚生労働省は途中断念して、議論を放棄した。「厚労省の責任は大きい」と言わざるを得ない。

第20回 雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会 議事録(PDF)

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