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ジョブ型雇用(限定正社員)弁護士ヒアリング(厚生労働省検討会)

多様化する労働契約のルールに関する検討会

厚生労働省の有識者会議「多様化する労働契約のルールに関する検討会」では無期転換ルール(労働契約法)見直し及びジョブ型雇用(職務限定・地域限定正社員)など多様な正社員制度ルール明確化に関する議論が行われている。

現在、第5回検討会(2021年7月28日)まで開催されたが、第1回は委員意見交換、第2回~第4回はヒアリング(企業・労働組合・有識者=弁護士)が実施された。

第4回検討会・有識者(弁護士)ヒアリング

第4回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」
日時:2021年6月24日(木)午前10時~12時
場所:AP虎ノ門 会議室
議題:有識者(弁護士)からのヒアリング
使用者側弁護士:日本経済団体連合会(経団連)推薦、第一協同法律事務所弁護士、経営法曹会議常任幹事の峰隆之弁護士
労働者側弁護士:日本労働組合総連合会(連合)推薦、神奈川総合法律事務所弁護士、日本労働弁護団常任幹事の嶋﨑量弁護士

資料1 多様化する労働契約のルールに関する検討会 ヒアリング事項に関する意見(峰弁護士提出資料)(PDFファイル)

資料2 多様化する労働契約のルールに関する検討会 ヒアリング事項に関する意見(嶋﨑弁護士提出資料)(PDFファイル)

第4回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」議事録

有識者(弁護士)ヒアリングのポイント

有識者ヒアリングでの使用者側・労働者側弁護士の両弁護士発言は議事録に詳細に記載されているが、ヒアリング後に事務局(厚生労働省)がポイントをまとめた文書(第5回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」参考資料4「検討会におけるこれまでの主な議論」)がある。
*両弁護士の正確な発言は、次節の議事録抜粋で確認してほしい。

1 総論
・各企業において正社員層をどのように仕分けて活用していくかは、企業の人事権そのものに関するものであり、法の介入は控えるべき。現状、全国転勤が想定されている企業では、雇用区分が整理されており、転勤範囲が不明という事例は殆ど見たことがない。配転可能な範囲を限定してしまうと、時間経過や環境変化による企業再編時に行き先がなくなり、却ってトラブルの種となる可能性がある。(使用者側弁護士)
・労使合意によって、長時間労働や使用者の配転命令権への歯止めがかかる働き方が「ジョブ型正社員」として模索されることに反対はしない。しかし、配偶者の遠隔地配転が実施されたり長時間労働が放置される限り、他方配偶者の離職を事実上強いられる(特に女性労働者が直面)問題は、「ジョブ型正社員」では解決ができない。「ジョブ型正社員」に関して、使用者が解雇規制緩和の一方策として利用できる、利用しやすい形での制度推進はあってはならない。均等・均衡確保のルールの抜け道として利用されることはあってはならない。(労働者側弁護士)
・転勤を巡っては、育児介護休業法26条による歯止めがあるとはいえ、あまり機能はしていないというのが自分の実務の実感であり、いつまでもその状態でいいのかと思っている。(労働者側弁護士)
*第5回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」参考資料4「検討会におけるこれまでの主な議論」抜粋
2 雇用ルールの明確化
・限定正社員等に対する労基法による就業規則への記載義務化について、勤務地・職種限定等は、個別の合意によることが多く、仮にこの点を就業規則の必要記載事項として立法化すると、就業規則の記載と個別合意のどちらを優先するか等をめぐり、却って誤解やトラブルが生じる可能性がある。例えば、就業規則に勤務地限定と記載されているが、労働者本人が勤務地にこだわらず個別合意で勤務地限定を外すケースにおいて、当初は労働者本人も納得していたが、途中で勤務地の変更を嫌になった場合、その時点でトラブルが生じうる。そのため、立法プランには賛成できない。(使用者側弁護士)
・限定正社員等に対する労働条件明示義務(雇入れ時、契約変更時)と限定正社員等に対する労働契約締結時や変更時の書面確認について、規制を行う必要性は特段認められない。正社員を含め、立法措置について特段の必要性を認めない。(使用者側弁護士)
*第5回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」参考資料4「検討会におけるこれまでの主な議論」抜粋

使用者側弁護士(峰隆之弁護士)ヒアリング

経営法曹会議常任幹事・峰隆之弁護士は、「企業の人事権そのものに対する介入にならないかという懸念がある」と指摘。

また「限定正社員等に対する労働契約締結時や変更時の書面確認につきましては、先ほど申し上げた状況認識から、立法による規制を行う必要性は特段認めておりません」と意見を述べている。

(略)次に、多様な正社員の雇用ルール関係です。総論的な状況認識は、ここ(資料1)に書いておるとおりでございます。要は、企業の人事権そのものに対する介入にならないかという懸念があるというのが最初のポツでございます。
現状認識としまして、全国転勤が想定されている企業では、雇用区分がきちんと整理されていて、その雇用区分ごとに、どの程度の距離的範囲、地域的限定で配転命令が可能かというのがきちんと整理されて明示されているケースがほとんどでございまして、こういった企業において転勤範囲が不分明という事例は、私は見たことがございません。
こういった問題についてある程度問題意識として持っているのは、技術系の方なのですね。エンジニア系の職種などで、どんどん技術革新していく、あるいは、事業そのものが企業再編の対象になって、会社分割をしてほかの会社が買い取っていくとか、そういう環境変化が激しいので、労働者の学生時代の専門分野がもはや自分の会社の中になくなってくるという事態も頻繁に生じております。
自分が専門分野を生かせるような部門が廃止されたり、ほかの企業に売却されたりする事例もあるので、あまり職種変更可能な範囲を限定してしまうとかえってトラブルのもとになる可能性があるので、この点についてはぜひ意識して議論していただきたい。入社当時に存在しなかった新たな拠点ができることもあるということも補足的に指摘しておきたいと思います。
配置転換そのものについての規制強化という議論もあるのかよく分かりませんけれども、これについては、現在、異議を唱えつつ、人事権濫用かどうかを争うことも可能ということで、転勤を拒否してその場で解雇されるという事例はほとんど存在しておりません。
今の人事権の濫用という物差しを使っての司法判断で、それ以上の立法による強化の必要があるとは認識しておりません。育児介護休業法26条の制定・施行以降、企業内では育児や介護のため転居を伴う転勤については割と謙抑的な姿勢を持つようになってきております。
これを前提に考えると、それほど配転命令についての規制強化という必要性はないのではないかと認識しております。こういった認識を踏まえて、4点だけ、最後にお話しします。
限定正社員に対する労働条件明示義務、雇い入れ時や契約変更時ですけれども、これについて私としては特に反対するものではございませんが、あえて立法による規制を行う必要がどれだけあるのかなとは思っております。
限定正社員等に対する労基法による就業規則への記載義務化ですが、こういった勤務地限定や職種限定は個別の合意によって決せられることが多いこと、仮にこの点を就業規則の必要記載事項として立法化しますと、就業規則の記載と個別合意のどちらを優先するか等をめぐってかえって誤解やトラブルが生じる可能性があるので、こういった立法プランには私は賛成しておりません。
限定正社員等に対する労働契約締結時や変更時の書面確認につきましては、先ほど申し上げた状況認識から、立法による規制を行う必要性は特段認めておりません。
正社員を含めた上記①から③と同様の立法措置についても、先ほどの認識から、特段の必要性を認めないと書かせていただきました。(略)
*第4回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」議事録抜粋

労働者側弁護士(嶋﨑量弁護士)ヒアリング

日本労働弁護団常任幹事・嶋﨑量弁護士は、「いわゆる正社員において、無限定正社員と評されるような勤務地と労働時間、勤務時間の関係で、すごく不安や不満が多いと思います。それが非正規の方の働き方と両輪、表裏であると思っています。女性だけの問題ではありませんが、とりわけ女性の労働者への影響は大きいと思います」と指摘。

また「緩やかであっても何らかの歯止めの徹底、当たり前の徹底が必要であろうと思います」と述べている。

(略)多様な正社員のところは少し理念的な話が多いのですが、(1)と(2)を両方まとめてのコメントを総論的にまずは書かせていただいています。
現状の認識ですけれども、いわゆる正社員において、無限定正社員と評されるような勤務地と労働時間、勤務時間の関係で、すごく不安や不満が多いと思います。それが非正規の方の働き方と両輪、表裏であると思っています。女性だけの問題ではありませんが、とりわけ女性の労働者への影響は大きいと思います。
今回の資料などにもあるとおり、確かにM字型の問題は解消傾向にあるようには見受けられますけれども、問題が消えたわけではありません。
今でも、、正社員として働き続けられている方の働き方だけを見ていると分からない問題があります。
そのうえでなぜジョブ型を選ばざるを得ないのかということが重要です。
家庭責任、育児や介護などとの両立、遠隔地配転の問題があります。勤務地についても、地域のつながりを大事にしながら生きていきたいという自分の生き方の問題とも抵触します。
例えば、育児介護休業法26条でも、歯止めがあるとはいえ、あまり機能はしていないというのが私の実務の実感でございます。
いつまでもその状態でいいのか。これは無期転換ルールと併せて、単に労働者自体の保護ではなくて、社会全体の安定、不安定化の問題にもつながるはずです。
それが、一時的、短期的、もしくは、一部の労使関係における時給の問題だけではなくて、社会全体の不安定化、経済的な面でも大きな問題になっているのではないかと思います。
社会の変化にあわせて働き方自体もいつまでも、労働者の異動不可欠、ジョブローテーションでもいろいろな勤務地を経験することでキャリアを形成するという働き方が本当に必要なのかという問題意識があります。
それが日本社会全体の活力につながるのかという視点です。私は、労働政策等の専門家ではありませんが、現場で多くの労働者などと接していて、労働者がキャリアを構築する機会を逸しているのではというのは労働側弁護士の実感です。
具体的ないただいた明示の点については、明示されることそれ自体に対して特段反対はないのですが、危惧は抱いております。
資料の「ただし」というところで長々と書いているのですが、どうしても明示された勤務地が限定であると、その勤務地がなくなれば、そのジョブがなくなれば、解雇される、もしくは、不利益な労働条件を受け入れるしかない。そのような解釈が使用者側から提示されることを促すような形であれば、むしろ明示などされないほうがいいと思います。
労働契約は、時間の流れで、労使双方、これは使用者側だけではありません。
労働者側もいろいろな生活環境が変わり得るわけですが、当然経営者側も状況は変わると思います。
そのような中で、変化があったときに直ちに雇用継続を断念せざるを得ないような事態は労使双方にプラスではないので、そのような明示があったとしても、悪用がなされないよう、だからといって、その勤務地、その職務等がなくなったときに直ちに解雇等が認められるわけではないと。
緩やかであっても何らかの歯止めの徹底、当たり前の徹底が必要であろうと思います。(略)
*第4回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」議事録抜粋

追記:多様化する労働契約のルールに関する検討会 報告書

無期転換ルールに関する見直しや多様な正社員の労働契約関係の明確化等について、厚生労働省の「多様化する労働契約のルールに関する検討会」において検討が行われたが、2022年3月30日、「多様化する労働契約のルールに関する検討会」報告書を厚生労働省が公表。

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*ここまで読んでいただき感謝(佐伯博正)