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これからの労働時間制度に関する検討会ー厚生労働省が新たな検討会を設置

これからの労働時間制度に関する検討会を設置

昨日(2021年7月19日)、厚生労働省労働基準局は新たな検討会(有識者会議)として設置された「これからの労働時間制度に関する検討会」のページを厚生労働省公式サイト内に新たに開設。

これからの労働時間制度に関する検討会(厚生労働省公式サイト)

これからの労働時間制度に関する検討会 第1回

第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」は2021年(令和3年)7月26日、労働委員会会館講堂にて開催されるが、議題は(1) 裁量労働制に関する現状等について、(2)その他。

なお「これからの労働時間制度に関する検討会」開催要綱は新検討会のページにはまだ公開されていないが(7月20日時点)、昨日(7月19日)に開催された(議題の一つが「裁量労働制に係る実態調査及び新たな検討会の開催について」なっている)第169回「労働政策審議会・労働条件分科会」資料のページに公開されている。

これからの労働時間制度に関する検討会 開催要綱

7月19日に労働条件分科会資料のページに公開された「これからの労働時間制度に関する検討会開催要綱」によると、新たに設置された検討会の趣旨・目的は次のとおり。

1.趣旨・目的
労働時間制度については、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)により、罰則付きの時間外労働の上限規制や高度プロフェッショナル制度が設けられ、働く方がその健康を確保しつつ、ワークライフバランスを図り、能力を有効に発揮することができる労働環境整備を進めているところである。

こうした状況の中で、裁量労働制については、時間配分や仕事の進め方を労働者の裁量に委ね、自律的で創造的に働くことを可能とする制度であるが、制度の趣旨に適った対象業務の範囲や、労働者の裁量と健康を確保する方策等について課題があるところ、平成25年度労働時間等総合実態調査の公的統計としての有意性・信頼性に関わる問題を真摯に反省し、統計学、経済学の学識者や労使関係者からなる検討会における検討を経て、総務大臣承認の下、現行の専門業務型及び企画業務型それぞれの裁量労働制の適用・運用実態を正確に把握するための統計調査を実施したところである。当該統計調査で把握した実態を踏まえ、裁量労働制の制度改革案について検討する必要がある。

また、裁量労働制以外の労働時間制度についても、こうした状況を踏まえた在り方について検討することが求められている。

このため、裁量労働制その他の労働時間制度について検討を行うことを目的として、「これからの労働時間制度に関する検討会」(以下「本検討会」という。)を開催する。

つまり「これからの労働時間制度に関する検討会」は「裁量労働制その他の労働時間制度について検討を行うこと」を目的とし、「裁量労働制の在り方」と「その他の労働時間制度の在り方」を検討事項としている。

2.検討事項
本検討会においては、次に掲げる事項について検討を行う。
・ 裁量労働制の在り方
・ その他の労働時間制度の在り方

これからの労働時間制度に関する検討会開催要綱(PDF)

これからの労働時間制度に関する検討会 委員名簿

「これからの労働時間制度に関する検討会」参集者(委員)名簿は開催要綱(別紙)に掲載されている。

これからの労働時間制度に関する検討会
参集者名簿


荒木尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授
小畑史子 京都大学大学院人間・環境学研究科教授
川田琢之 筑波大学ビジネスサイエンス系教授
黒田祥子 早稲田大学教育・総合科学学術院教授
島貫智行 一橋大学大学院経営管理研究科教授
堤 明純 北里大学医学部教授
藤村博之 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授                                                                                                              (敬称略・五十音順)

荒木尚志・東京大学大学院法学政治学研究科教授は、東京大学公式サイトによると、関心分野は労働法、比較労働法、労働政策、担当授業科目は労働法、比較労働法、所属学会は日本労働法学会、国際労働法社会保障法学会、労使関係研究協会、日独労働法協会、公的活動等は東京都労働委員会公益委員(2002~2013)・会長(2012~2013)、中央労働委員会公益委員・会長代理(2017~)、労働政策審議会労働条件分科会公益委員(2001~2013、2015~)・会長(2017~)、国際労働法社会保障法学会理事(2006~)・副会長(2009~2012、2018~)。

小畑史子・京都大学大学院人間・環境学研究科教授は、京都大学公式サイトによると、研究分野は労働法、労働環境法、所属学会は日本労働法学会。

川田琢之・筑波大学ビジネスサイエンス系教授は、筑波大学公式サイトによると、担当科目は労働法、研究分野は社会法学、所属学会は日本労働法学会。

黒田祥子・早稲田大学教育・総合科学学術院教授は、早稲田大学公式サイトによると、所属学会は行動経済学会、日本経済学会。

島貫智行・一橋大学大学院経営管理研究科教授は、一橋大学公式サイトによると、研究分野は人的資源管理論、所属学会は日本労務学会、組織学会、日本経営学会。

堤明純・北里大学医学部教授は、北里大学公式サイトによると、研究テーマは職業性ストレスの健康影響とその予防に関する研究、労働者の健康の社会格差のメカニズムの解明と制御に関する研究。

藤村博之・法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授は、法政大学公式サイトによると、所属学会は日本労使関係研究協会、社会政策学会、日本キャリアデザイン学会など。

裁量労働制実態調査結果と田村厚生労働大臣

裁量労働制実態調査結果が公表された2021年6月25日の朝(9:17 ~ 9:42)、厚生労働省内会見室で田村憲久・厚生労働大臣記者会見が行われた。その会見において、裁量労働制に関して記者から次のような質問が行われ、田村厚生労働大臣は次のように回答している。

記者:本日、裁量労働制の実態調査に関する専門家検討会が予定されています。裁量労働制の適用拡大は、2018年に「働き方改革関連法」で対象者の範囲を拡大する方針だったのですが、当時の実態調査がずさんだったことが問題になって断念した経緯があります。新たな実態調査を踏まえ、厚労省として今後も裁量労働制の適用拡大を目指すのか。議論のスケジュール感も含めてお願いします。

大臣:本日16時から開催いたします、「裁量労働制の実態調査に関する専門家検討会」ここで調査結果を公表する予定であります。

ここでご議論いただいて適正ということになれば、これを基に、次にどういう検討をしていくかという話になると思いますが、既に一度検討いただいた上で法案として提出をして取り下げたという経緯がございます。

その時のいろいろな議論の経緯、こういうものも踏まえて今度新たな調査が出てまいりましたので、その調査を踏まえてまた議論をいただかないといけないと思います。今、いつ議論の結論を得るかというところまでは考えてはおりません。

当然、その議論の中でいろいろなご議論が出てくるわけでありまして、それに合わせてどのような形にしていくべきかということを決めてまいりたいと思っております。(厚生労働省公式サイトより)

田村厚生労働大臣の裁量労働制に関する発言を整理すると次のようになる。

1 裁量労働制調査結果を踏まえて議論をしないといけない。
2 6月25日時点では、いつ議論の結論を得るかというところまでは考えていない。
3 裁量労働制適用(対象)拡大については今後の議論の中でいろいろな意見が出てくると推察している。
4 裁量労働制適用(対象)拡大の議論において、いろいろな意見が出てくるが、「それに合わせてどのような形にしていくべきか」を決めてたい。

また、厚生労働省の黒澤朗・労働基準局労働条件政策課長は「裁量労働制の方が時間が長いというのが正しい実態だ。結果を踏まえ、制度全般を幅広く議論していく」と述べている(毎日新聞デジタル版「裁量労働制、適用者の勤務時間長く 厚労省調査 制度見直し」2021年6月25日配信)。

労働条件政策課長の考えは「結果を踏まえ、制度全般を幅広く議論していく」ということらしいが、「幅広く議論していく」という個所が曖昧な点もある。

労働政策審議会・労働条件分科会 第169回

厚生労働省「労働政策審議会・労働条件分科会」(第169回)が2021年7月19日に開催されるが、議題は次のとおり。

・「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」の成立について(報告事項)
・裁量労働制に係る実態調査及び新たな検討会の設置について(報告事項)
・「経済財政運営と改革の基本方針2021」等について(報告事項)

議題の中で注目すべきは「裁量労働制に係る実態調査及び新たな検討会の設置について(報告事項)」。報告事項となっているが、何故、新検討会設置が必要なのか丁寧な説明をしてほしいが、現在(7月20日)の時点では議事録未公開のため説明内容については正確には不明。

裁量労働制実態調査に関する専門家検討会等について(PDF)

裁量労働制実態調査の概要(PDF)

なお、日刊建設工業新聞が昨日(7月20日)開催された労働政策審議会・労働条件分科会と新たに設置される「これからの労働時間制度に関する検討会」に関する記事を書いていた。

厚生労働省は裁量労働制の運用実態を踏まえた制度改正に着手する。有識者会議を設置し対象業務の拡大や、労働者の裁量と健康の確保といった課題で解決策を立案する。19日に労働政策審議会(労政審、厚労相の諮問機関)労働条件分科会(分科会長・荒木尚志東京大学大学院法学政治学研究科教授)の会合を東京都内で開催。厚労省がまとめた実態調査の結果や有識者会議の議題などで意見交換した。

裁量労働制は勤務時間や仕事の進め方を労働者に委ね、事業者(使用者)が一定の賃金を支払う。建設業界関係では建築士や不動産鑑定士などに適用している。

厚労省は「これからの労働時間制度に関する検討会」を設置し裁量労働制の見直しを議論する。厚労省が6月に公表した実態調査結果によると、裁量労働制で働く労働者の1日当たりの平均労働時間は9時間。一般の労働者(8時間39分)よりも21分長いことが分かった。見直しを巡っては半数以上の事業者が「対象労働者の範囲を見直すべきだ」と、対象業務の拡大を求めている。一方、労働者は「健康やワーク・ライフ・バランスへの配慮」を訴えている。

労使双方の要望を踏まえ、対象拡大と労働環境改善などの論点で制度の在り方を検討していく。裁量労働制の対象業務拡大(一部営業職などの追加)は、国会で働き方改革関連法案が審議された時、目玉施策の一つとして盛り込まれていた。だが、国会審議中に労働時間調査のデータ不備が判明。政府は該当する箇所を法案から削除し、調査もやり直した経緯がある。(日刊建設工業新聞、2021年7月19日)

厚労省/裁量労働制改革に着手/対象業務拡大など検討へ(日刊建設工業新聞、2021年7月19日)

自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度(経団連)

日本経済団体連合会(経団連)は裁量労働制対象(適用)拡大へ向けて長年にわたり強い要望を示している。政府や厚生労働省の動きは、この経団連要望に沿ったものと言い得る。

今年(2021年)4月5日に公表された「当面の課題に関する考え方」にもテレワーク人事評価・労務管理上課題の検討とともに裁量労働制対象(適用)拡大について記載されている。

つまり、テレワークと裁量労働制対象拡大により「場所と時間にとらわれない働き方」を推進しようとしている。

5.働き方改革と人材育成
雇用調整助成金特例措置に関して、感染状況や業況を踏まえ、5月以降、段階的・部分的に縮減する政府方針を支持する。経団連としては会員企業に対して引き続き、雇調金特例措置や産業雇用安定助成金の活用等により、在籍型出向も含めた雇用維持を働きかける。一方、雇用保険制度の財源が枯渇化していることから、思い切った一般財源の投入を政府に求める。

また、働き手のエンゲージメント向上に着目し、働き方改革の深化を促す。その一環として、場所と時間にとらわれない働き方を推進すべく、テレワークを巡る人事評価・労務管理上の課題について検討するとともに、裁量労働制の対象拡大等、自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度の実現を目指す。

新たなインターンシップのあり方に関する産学の共通理解の確立や、ジョブ型採用に繋がるインターンシップ実施、オンライン教育の課題整理、大学等と連携したリカレント教育の拡充、組織対組織の産学連携の推進など、産学協議会の10のアクションプランを実行し、産学連携でSociety 5.0を支える人材を育成する。

つまり「場所と時間にとらわれない働き方を推進すべく、テレワークを巡る人事評価・労務管理上の課題について検討するとともに、裁量労働制の対象拡大等、自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度の実現を目指す」ことが、経団連の方針。

その経団連方針に「裁量労働制の対象拡大等、自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度の実現を目指す」とあるが、今回の厚生労働省の新たな検討会は「これからの労働時間制度に関する検討会」。つまり、「新しい」が「これからの」に変えられただけのように思える。

経団連は「自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度」としているが、自身が働いている会社で、裁量労働制など新たな労働時間制度になったとして「自律的・主体的な働き方」が可能だろうか。

また安全配慮義務も健康配慮義務も知らない上司ばかりで、難題を押し付ける顧客ばかりで、手に負えない仕事ばかりで、無理な締切ばかりで「自律的・主体的な働き方」が可能だろうか、はなはだ疑問。

裁量労働制対象(適用)拡大と経団連要望

日本経済新聞が社説(「生産性向上へ裁量労働制を広げよう」、2021年6月30日配信)で「仕事の時間配分を働き手が決められる『裁量労働制』の拡大に向けた議論がようやく再開する。厚生労働省の調査データの不備が原因で2018年に頓挫していたが、改めて実施した調査結果がまとまった。厚労省は時間の空費を自省し、待ったなしの改革ととらえて議論を迅速に進めるべきだ」と主張。日本経済新聞は「厚労省は時間の空費を自省し」と辛らつなことを書いていた。

厚生労働省は6月25日、裁量労働制実態調査結果を公表したが、1日の平均労働時間は、裁量労働制は9時間で、適用されない人の8時間39分より長かったし、また、あらかじめ定めた『みなし労働時間』より長く働いていることも判明した。そして厚労省は7月にも有識者検討会を設置し制度の見直しに着手すると報じられていた。

「改訂 Society 5.0の実現に向けた規制・制度改革に関する提言-2020年度経団連規制改革要望-」を昨年(2020年)10月13日に経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)が公表したが、その「Ⅲ.2020年度規制改革要望」「2.テレワーク時代の労働・生活環境の整備」に「企画業務型裁量労働制の対象業務の見直し」などが要望として記載されている。

No. 44. 企画業務型裁量労働制の対象業務の見直し
<要望内容・要望理由>
労働基準法は、企画業務型裁量労働制の対象を「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」と定めている。

しかしながら、経済のグローバル化や産業構造の変化が急速に進み、企業における業務が高度化・複合化する今日において、業務実態と乖離しており、円滑な制度の導入、運用を困難なものとしている。

そこで、「働き方改革関連法案」の審議段階で削除された「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を早期に対象に追加すべきである。

<根拠法令等>
労働基準法第38条の4

2020年10月の経団連要望には「『働き方改革関連法案』の審議段階で削除された『課題解決型提案営業』と『裁量的にPDCAを回す業務』を早期に対象に追加すべき」とある。

だが、この「課題解決型提案営業」「裁量的にPDCAを回す業務」を付け加えて裁量労働制対象拡大しようとする案は2018年2月28日に安倍晋三首相(当時)は「働き方改革関連法案」から削除して一度は断念している。

日本経済新聞の社説「裁量労働制を広げよう」は、2018年に働き方改革関連法案から削除された「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を裁量労働制対象に追加すべきとする2020年度経団連要望に追従するものであろう。

上西充子・法政大学教授は岩波書店『世界』2018年5月号に寄稿された「裁量労働制を問い直せ」の中に「どちらも対象業務が曖昧で、幅広く適用されるおそれがある」と記載。

そして上西充子教授は、前者については「あらゆるホワイトカラー労働者が適用対象に含まれる可能性がある」、また後者については「法人相手の営業職は、すべて対象とされると考えて良いだろう」との嶋崎量弁護士の指摘を紹介。

2018年に閣議決定した裁量労働制に関する答弁書

厚生労働省は新たな検討会「これからの労働時間制度に関する検討会」を設置し、再び裁量労働制対象(適用)拡大議論が始まる。

この議論において、最も懸念すべきは2018年(平成30年)2月6日に閣議決定した「契約社員や最低賃金で働く労働者にも適用可能」とする答弁書。嶋崎量弁護士も「注意すべきは、年収要件がないこと、雇用形態に制限がないことだ」と指摘していた。

企画業務型裁量労働制が予定している適用対象者は、企業の中枢にいるホワイトカラー労働者だ。
ただ、注意すべきは、年収要件がないこと、雇用形態に制限がないことだ。(嶋崎量『「働き方改革」に含まれる猛毒・裁量労働制の「本当の姿」と「あるべき姿」』2018年2月28日)

「働き方改革」に含まれる猛毒・裁量労働制の「本当の姿」と「あるべき姿」(ヤフーニュース)

この嶋崎量弁護士の言葉を明確にしているのが、2018年2月6日に安倍政権が閣議決定した「衆議院議員山井和則(希望)提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」になる。

平成30年(2018年)2月6日 定例閣議案件(首相官邸公式サイト)

「衆議院議員山井和則(希望)提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」には「企画業務型裁量労働制の対象労働者についての賃金、労働契約の期間、雇用形態、勤続年数及び年齢に関する要件はない」と記載されている。まさに上西充子・法政大学教授の「対象業務が曖昧で、幅広く適用されるおそれがある」との指摘を明確に裏付けるものとなっている。

企画業務型裁量労働制の対象労働者についての賃金、労働契約の期間、雇用形態、勤続年数及び年齢に関する要件はないが、労働基準法第三十八条の四第一項の規定により、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であること等が必要であり、これらの要件に該当する労働者に限り、企画業務型裁量労働制を適用することができる。
また、法案要綱においては、「対象業務に従事する労働者は、対象業務を適切に遂行するために必要なものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する知識、経験等を有するものに限るものとすること」とされており、これを企画業務型裁量労働制の対象労働者の要件として定めることを検討中である。さらに、新対象業務に係る企画業務型裁量労働制についても、当該要件を満たすことを必要とすることを検討中である。(衆議院議員山井和則君提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」抜粋、2018年<平成30年>2月6日)

衆議院議員山井和則君提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書(衆議院公式サイト)

規制改革実施計画 (2021年6月18日閣議決定)

2018年の安倍政権閣議決定「裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」から現在の菅政権に話を戻すと、2021年(令和3年)6月18日、菅政権は「経済財政運営と改革の基本方針2021」「規制改革実施計画」を閣議決定した。

まず「経済財政運営と改革の基本方針2021」「第2章 次なる時代をリードする新たな成長の源泉 ~4つの原動力と基盤づくり~」「5.4つの原動力を支える基盤づくり」「(5)多様な働き方の実現に向けた働き方改革の実践、リカレント教育の充実(フェーズⅡの働き方改革、企業組織の変革)」には次のような記載がある。

(前略)労働時間削減等を行ってきた働き方改革のフェーズⅠに続き、メンバーシップ型からジョブ型の雇用形態への転換を図り、従業員のやりがいを高めていくことを目指すフェーズⅡ の働き方改革を推進する。

ジョブ型正社員の更なる普及・促進に向け、雇用ルールの明確化や支援に取り組む。裁量労働制について、実態を調査した上で、制度の在り方について検討を行う。(後略)

また「規制改革実施計画」「Ⅱ 分野別実施事項」「5.雇用・教育等」「(4)多様で主体的なキャリア形成等に向けた環境整備」には次のように記載されている。

(4)多様で主体的なキャリア形成等に向けた環境整備
No.5 
事項名:社会経済環境や雇用慣行などの変化を踏まえた雇用関係制度の見直し

規制改革の内容:a  厚生労働省は裁量労働制について、現在実施中の実態調査に関して、適切に集計の上、公表を行う。その上で、当該調査結果を踏まえ、労働時間の上限規制や高度プロフェッショナル制度等、働き方改革関連法の施行状況も勘案しつつ、労使双方にとって有益な制度となるよう検討を開始する。

実施時期:a 令和3年調査結果公表、調査結果が得られ次第検討開始

所管府省:厚生労働省

規制改革実施計画 (令和3年6月18日閣議決定)(PDF)

規制改革実施計画には、裁量労働制 について「労使双方にとって有益な制度となるよう検討」とある。学者の方々ばかりがそろった有識者会議「これからの労働時間制度に関する検討会」で、労使双方にとって有益な制度となるよう検討することが可能だろうか、疑問が残る。

追記:これからの労働時間制度に関する検討会 資料(第1回)

本日(2021年7月26日)、第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」が開催され、資料が厚生労働省公式サイトに公開された。

資料5 今後の検討会の進め方(案)
○裁量労働制の実態把握(3~4回程度)
・裁量労働制実態調査のデータ
・ヒアリング
○裁量労働制に係る個別の論点について
○その他の柔軟で自律的な働き方を可能とする労働時間制
度等について
○議論のとりまとめ

資料3 裁量労働制の現行制度の概要及び経緯等について(PDF)

資料4ー1 裁量労働制実態調査について(PDF)

資料4-3 裁量労働制実態調査の結果について(概要)(PDF)

第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」資料(厚生労働省公式サイト)

なお、厚生労働省労働基準局が実施する新たな検討会(有識者会議)「これからの労働時間制度に関する検討会」の名称が不適切だと思う。「裁量労働制及びその他の労働時間制度に関する検討会」に変更したら適切になるが、「これからの労働時間制度に関する検討会」のままでは「『裁量労働制(対象拡大)』隠し」と言われても仕方がない。

追記:関連記事

*ここまで読んでいただき感謝(佐伯博正)