真空パックのトキメキ
夢って、2種類あると思うんです。
いや別に、「見る夢」と「叶える夢」の2種類のことを言っているんじゃありません。
「叶えられる」と思わなかったら叶えられるはずないだろう!とかいう暑苦しいことを言いたいわけでもありません。
私は、夢には「過去」のものと、「未来」のものがあると思うのです。
ちょっとだけイキったことを言うんですけど、夢って、「未来」のものであれば、なんでも叶うと思うんです。というか、そう思うようにしてるんです。諦めなければ。いろんな科学・技術が発展すれば。いろんな可能性を模索して、足を止めなければ。必ず、いつかは叶う、と。(イキってんなー)
ただ、ですよ。今のところ、この世界において「時間」というものは不可逆なわけで、「過去」の夢に関してだけは、どーーーーしようもないんじゃないの??と思ってしまうんです。
私が抱いている「過去」の夢。
それは
共学に通いたかった、まじでーーーーーーー!!!!!!!!!!!
です。
くだらないなーって思いました?
いやいや。これがどれだけ、私の青春時代に多大な影響を及ぼしたのかわかってるんですか?(突然のキレ)
私は中学高校の6年間を、私立の女子校で過ごしました。
それはそれは自由な学校で、心から尊敬できる友人たちに恵まれ、充実した教育を受けさせてもらい、かけがえのない6年間でした。
だから、「後悔してる」ということはありません。
ただ、そんな私でもやっぱり、恋のひとつやふたつ、してみたかったのです。
毎日、授業中は教科書の内側に少女漫画を隠して読み、好きな男の子の登場人物(大抵、ヒロインが好きになる人を私も好きになっていました)に本気で恋をし、その子の素敵なところやキュンとするシーンをノートに書いて、そのページをちぎって、友人に回していました。
末期です。私はこの持て余したエネルギーを、どこにぶつけたらよいのか、わかりませんでした。
少女漫画のヒロインと私は同い年のはずなのに、どうしてこんなにも境遇が違うのだろうか。
このヒロインは自転車で通学している時、後ろからちょっとやんちゃで人気者な男子に「おう!」と肩を叩かれ、「もうっ、痛いなぁ〜〜!こらぁ〜〜っ!」とかいいながら頬を赤らめているのに、どうして私は一人っきりで満員電車に乗り、女子しかいない学校に向かっているのか。
このヒロインは、席替えをしたら窓際の一番後ろの席で「ラッキー♪」って思い、なぜなら密かに恋心をよせる先輩が校庭で体育の授業を受けているのを見られるからで、先輩がサッカーで良いパスをもらい、あとちょっとでゴール決まりそう、というところで思わず「いけっ、頑張れっ」っていう心の声が漏れてしまったもんだから、担任の先生から「おい、授業聞いてんのかー」ってチョーク投げられたりとかしてるのに、なぜ私はそもそも席替えという行事そのものになんのトキメキも持てず、そして窓から見えるのは「え〜まじ寒いんだけど〜」とボヤきながらだるそうに走る女たちだけなのか。
こういった様々な理想と現実のギャップは、私をより一層妄想の世界へと引きずり込んでいったのです。
一時は、本当に泣くかと思いました。悲しくて。
中学・高校というもう二度と訪れない貴重な時間を今自分は過ごしており、そしてそこに男子という存在が現れることはないのだという現実を知った時、私は本気で打ちひしがれたのです。
部活なんてどうでもいい。勉強なんて、もっとどうでもいい。私は、ときめきたかった。
今となっては、そんな青春時代も笑いながら振り返ることができます。女子校で過ごした日々はかけがえのないものですし、高校卒業後はそれなりに恋愛もしてきました。
ただ、あの時に夢見たことは、いまだに私の体から離れることはありません。中学高校という特異な時間の中で真空パックされたトキメキは、どれだけ時間が経っても、トキメキのままなのです。
もし私が、私立の女子校ではなく、地元の共学に通っていたら・・・。
真空パックされたトキメキを、2つほど、開封してみようと思います。
<プロット1>
中学3年生の翔太と春香。
別々の私立高校を目指して受験勉強中。忙しい勉強の合間を縫って一緒に過ごせる時間は、帰り道だけ。
運動神経が悪く自転車に乗れない春香は、翔太の自転車が羨ましかった。そして何よりも、自転車に乗る翔太を見るのが、好きだった。
夕暮れの土手を歩く春香と、その隣で自転車をひく翔太。
春香「ねぇ」
翔太「ん?」
春香「自転車、乗っていいんだよ」
翔太「えー?でもそしたら春香、走るの?笑」
春香「んー、それは疲れちゃうから、無理かなぁ・・・」
翔太「なんだ、それ(笑)」
・・・
翔太「じゃあ、後ろ、乗る?」
春香「え、、、でも、転んだら危ないからって、ママに言われてるし・・・」
翔太「いいじゃん、誰も見てないって。ほれ」
サドルにまたがる翔太。後ろに乗る春香。
走り出す翔太。翔太につかまる春香。
翔太「どう?怖い?笑」
春香「・・・ううん。」
翔太「ん?どした?」
春香「いや、、、気持ちいいな、と思って。風が。」
翔太「そーか?・・・まぁ、春香、初めてなんだもんな。ここの風、気持ちいーよなー。俺も好き」
なんとなく、黙る春香。そしてなんとなく、黙る翔太。
翔太「また、いつでも乗せてやるよ」
春香「・・・卒業、しても・・・?」
翔太「・・・おう」
春香「・・・そっか」
春香はぎゅっと翔太を抱きしめ、ちょっと埃っぽい匂いを嗅いだ。
<プロット2>
高校1年生の健と梨沙子。
二人は付き合っている。健と過ごす時間が楽しすぎて門限を数回破ってしまった梨沙子は、お父さんに猛烈に怒られ、外出禁止令を出されている。
一軒家の2階にある自分の部屋のベッドの上で、本を読んでいる梨沙子。
・・・コツっ。
窓に、何かが当たる音がする。なんだろう、とカーテンを開けると、窓から見えたのは、いたずらそうに笑う健の姿だった。
梨沙子(ちょっと健、何やってんのっ!お父さんに見られたら、怒られちゃうって!)
窓を開け、ベランダからできるだけ小さな声で健に話しかける梨沙子。
健「ダイジョーブだーって!」
ベランダの柵を飛び越え、2階の梨沙子の部屋まで、入ってこようとしているらしい。
梨沙子「ちょ、危ないってば!!」
梨沙子の心配をよそに、ヨユーな様子で壁をよじ登る健。梨沙子の部屋の窓から、入ってきてしまった。
梨沙子を抱きしめる健。
健「来ちゃったー(笑)」
梨沙子「来ちゃったー、じゃないよ、もう!バレたらどうすんのー!」
屈託のない健の笑顔に、力が抜ける梨沙子。
ドアの向こうから、階段を上がる足音が聞こえる。どうやらお母さんが、物音に気付いてしまったらしい。
慌てて、健をベッドの下に押し込む梨沙子。
ママ「なんだかでっかい物音したけど、大丈夫〜?」
梨沙子「だ、大丈夫〜!クローゼットの整理してただけ〜!」
「あらそう、お風呂入りなさいねー!」とドア越しに言い残して、去るお母さん。
はぁ〜〜〜とため息をついた梨沙子の顔を覗き込み突然、梨沙子の腕を引っ張り、ベッドの下に引き摺り込む健。
梨沙子「ちょ、なにすんのよ〜」
ベッドの下で目が合い、健は梨沙子にキスをする。キョトンとする梨沙子。
健「いいじゃん、会えたんだし」
その笑顔、ずるいなぁ。梨沙子は結局、ぜんぶ許してしまうのだった。
引きましたか?・・・ですよね。うん、わかる。
また、真空パックに戻しておきますね。
Sae
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