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【小説】SNSの悪夢

暗くなってくると、前のマンションに明かりが点く、自分もそろそろ家に帰ろう。

まだ売ってはいなくても、あの家に帰るしかない、1人でいるには大きすぎて寒い家に。

明かりが点いているのは人が居る証拠だ、明かりが点いているだけで、中には温かい家庭が有る気がしている。

そんな家ばっかりだとは思わないが、子供の時に電気で照らされた家を見て、羨ましくなった気持ちが蘇る。

だからこそ、自分の家庭は大事にして置きたかったのに、まあいい、SNSを使って何も無いのに批判される状況がどんな物か解るだろう。

今日は帰ろう、マンションにも人が入って居る、その中の誰かだと解っているのだから。



レジのパートを終えると、家事が待っている、疲れていても誰も変わってくれない。

買い物を済ませて、家に向かって小走りに走って行く、あれっ、何か知ってる顔が居る。

あれは前に不倫で話題になった人みたいだ、でもタレントがこんな所に居ないよね、考えながらマンションに入った。

ドアを開けると、そこにも仕事が待っている、掃除をしておいたはずなのに散らかった部屋、コップが置いてある流し台。

「お母さん、遅ーい、今からご飯なの?もう直ぐ塾の時間なんだよ。」気楽そうに娘が話してくる。

私はその塾のお金を稼ぎに行っているんですけどね、心の中の怒りを抑えながら返事をする。

「ごめんなさい、仕事が長引いたんよ。」言い訳する必要は無いのに、つい言い訳をしてしまう。

「エ~、直ぐに帰れるからパートしてんのじゃ無いの。」ふくれっ面が現れた。

「レジってパッと帰りますって訳にいかない時が有るからね。」教える様に言ってみる。

「大した仕事してないのにね。」言葉は刃物だ、心に確実に刺さって、小さかった傷がまた少し広がる。

「直ぐに作るからね。」そう言って、温めれば良いだけの保存食を温めて、横にソテーを添える。

「焼くだけなんやね。」文句が有りそうに言ってくる、じゃあ自分でやればって言葉は言わないで置く。

きっと彼女もその立場になったら分かるのだろうと考えてみる、違うか、人間は同じ立場に立つ事は無い、自分の感覚は人には解らないのだ。

「ごちそう様。」そっけなく言うと、直ぐに部屋に行って用意をして、「行ってきます。」バタンと玄関のドアが閉まる音が響く。

こんな日がどれくらい続くんだろう、これまでは夫と子供の為に自分を捨てて、納得できない仕事をしてきた。

大した仕事じゃ無くて悪かったね、家族の為にこの選択をしているんだよ、今日もSNSで憂さ晴らしでもしようかな、そう思った。


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