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【小説】恋の幻想
パタンとドアが閉まって、良平が「後を頼む。」と言って出かけた、この女の子と二人だ。
部屋を片付けて布団を敷く、布団は何処をどう探しても1組しかなかった、まあいい、二人で使おう。
「ちょっとお風呂に入って来るね。」一言いいおいて風呂に入る、その間に出て行ってしまうかも知れない、その時はその時かな。
お風呂から出て部屋を覗くと、さっきと同じ形で座っている、何か考えているのだろうか。
「どうしたの?布団に入っていても良いのよ、私も入るからちょっと狭いけど。」そう言ってみる。
「すみません、ご迷惑かけて、そんなつもりは無かったんです、見ず知らずなのに。」と口ごもっている。
「そう言えば名前も聞いていないよね、良かったら教えてくれる?」聞いてみる。
「すみません、三村忍と言います。」すみません言い過ぎちゃんだな、謝るしかない環境に居たのかな。
「すみませんは良いよ、だってあなたに何かあったらこっちが良心の呵責に苛まれる、だから自分の為だから。」これは本当の事。
「私も名前を伺っても良いですか?」丁寧な言葉は育ちの良さを感じるけど、なんで家を出ようと思ったんだろ。
「私はね、吉村裕子って言うのよろしくね、この家の持ち主であなたを拾ってきた人は高橋良平、良い人過ぎるほどいい人なのよ。」彼女もそう感じてると思うけど、言ってみる。
「良い人ですよね、放って置いても良かったのに、実際駅を行く殆どの人が無視してたのに。」と言い淀む。
「でも、迷惑じゃ無かったでしょ、ゆっくりしてるとこれから如何するか考えるのが簡単になるよ。」説明が難しいけどそう言う事。
「迷惑どころか、有難すぎる、一緒に行こうと思っていた人は来ないし、1人で何処かに言っても良かったんだけど、もう少し待とうが長くなっちゃって。」言い訳っぽく言っている。
「良いんだよ、きっと大変だったんだよね、ここでゆっくりして良いんだよ。」彼女が嫌と思わない程度に、肩に触れる。
ハッとしたように背筋を伸ばして、その後彼女は少しづつ近寄ってきた。
「大丈夫、なんでも上手くいくから。」呪文の様になんども声に出していると、彼女は凭れ掛かってきて、身体の底からすすり泣く声が聞こえてきた。
「今まで頑張ってきたんだよね。」想像でしかないけど言ってみる、彼女はコクンと頷くと、泣き続ける。
知り合ったばかりの女の子の体を包み込むみたいに抱いて、私はこんなキャラじゃないんだけどな、なんて考えていた。
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