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【小説】恋の幻想

「こんにちわ~。」ここに来るのに慣れてきて、忍は大きな声で話すようになった。

本来の彼女がどうだったかが解らないから断言はできないが、これが中に秘めていた本人の本質なんじゃないかな。

「いらっしゃい。」と返しながら、男と二人で個室に居るのは問題になるよと言いそうになる。

以前、裕子が来なくなってから、二人だけで部屋に居るのは嫌な噂になるかもしれないと言った。

「私は気にしないんですけど、良平さんは駄目ですか?」困った顔で首を傾げている。

「俺は良いんだよ俺は、でも女の子は変な噂で損するだろう、裕子が来ないと俺が何してるか解らないって、人は思うんだよ。」なるべく問題にしない様に諭す。

「自分の噂なんて気にする方が可笑しいんです。」これまでも謂われない言葉を聞いてきたらしく、気にしないと主張する。

言い張る所が気にしている証拠じゃないか、頭の中に浮かんだ言葉が厳しくならないか心配で口に上ることはない。

彼女が気にしないなら俺が気にする所じゃない、裕子が聞いたら𠮟りつけられる所だろう。

話してみると忍は年の割に老成していて話しやすい、この年の女の子がこんな話をするのは苦労してきたんだなと考える。

その後自分が親の気持ちになっていて、恋愛対象とは見ていないと、気持ちが苦笑いしている。

「ちょっと聞いていいですか?」改まって忍が質問してくる、俺の方が余計な質問をするのが多くて、珍しいなと感じていた。

「何でも聞いて、俺に答えられる物ならね。」茶化すように言葉を使う、真剣に話すのはきつい。

「裕子さんとは何故結婚しなかったんですか、凄くお似合いのカップルなのに。」真剣な瞳が俺に向けられる。

「困ったな、俺が婚約破棄したわけじゃ無いんだよ、裕子が言ってきて。」言い訳がましいな。

「裕子さんが言っていたけど、止めようって言ったらそうだなって言っていて、本当に私が好きだったのかどうか解らないって言ってたんです。」忍がそんな話をしていたのかと、こっちは驚いた。

「もともとが押し切られちゃった形だったんだよ、好きではあったけど結婚ってまだ現実味が無い時期で、好きなら結婚しようって言われて、お互いの親も知り合いだったし、面倒が無いと思ったんだよね。」我ながら情けない話だ。

「じゃあ、結婚したいって思ってないのに婚約してたんですか?」少しだけ厳しい口調になる。

はあ、と溜息をついて、情けない自分を曝け出す事にして見た。

「そうなんだ、考えてなかったんだ。」これで嫌われたら、その時の事だと思っていた。


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