【小説】恋の幻想
「笑っているけど、笑い事じゃ無いからな、警察に接近禁止命令出して貰わないといけないよな。」良平が話している。
接近禁止命令って如何すればいいのか解らない、後で聞きに行こうと頭の中にチェックを入れる。
結婚するって、頭の中のチェックを確認して、リストを減らしていく作業を毎日する時間で、それが楽しくなければ出来ないのかも知れないな、なんて考えた。
私と裕子さんは二人で笑いが止まらない、笑い過ぎて涙が出てくる、これは安心の涙かも知れない。
「良かったね、追い払えたよ。」笑いながら声を出す、でも手に握られているカッターはちょっとだけ震えている。
私は裕子さんが加害者になるのも嫌だった、私たちは被害者だから、それで責められたくはない。
「私が何にもできなくてごめんなさい。」笑いながら震える声で答えている。
全て私の問題なのに、二人とも変わってくれて、これが家族なのかな、与えられなかった家族を考える。
「ごめんなさいは言わなくて良いよ、ありがとうで良いんじゃない。」と裕子さん。
「ありがとう、でも大変だったでしょ、裕子さんが怪我しないか心配だった。」続けて言う。
「心配してくれてありがとう、私は覚悟が有るから大丈夫、忍ちゃんに何も無くて良かった。」裕子さんの頭がこつんと私の頭にくっついた。
体の一部でもくっつけるのは、初めて会った日以来なので、久しぶりにドキドキする。
裕子さんはいい匂いがしている、私は化粧品が嫌いなので、化粧品では無い筈、それは何かは解らないけど花の匂いみたいだ。
同級生がお母さんは良い化粧品の匂いがすると言っていたのを思い出す、裕子さんは化粧品じゃ無くて本物の花の匂いだ。
「裕子さん花の匂いがする。」いきなり口に出してしまう、安心して居る時には考えなしに言葉が出る。
何時もなら、気持ち悪いって思われないかとか、如何でも良い話はしちゃいけないとか考えるんだけど、今はタガが外れてしまっているみたいだ。
「ありがとう忍ちゃん、私ね花を扱っているから、その匂いが残ってるのかな。」そう言えば仕事を聞いていなかった。
「花屋さんだったんですか?」驚いて顔を見つめて聞いてしまった。
「そうだよ、見えないかな花屋には。」自分の服を眺めながら、裕子さんが答えてくれる。
「見えます、今迄そう見ていなかっただけで、ちゃんと見えます。」慌てて言葉を返す。
「見えなくても良いんだよ、でもね私、花屋としてキツイ匂いだけはつけない様にしてるんだ、だから花の匂いって言われて嬉しい。」
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