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【小説】恋の幻想

声が消えて無くなっても、まだ気持ちが残っているから、眠れない二人でいる。

お互いのぬくもりと吐息を感じて、余計にな無理に着くのが難しくなる、もういっそ起きていたらとも思う。

「ねえ、良い人と知り合ったね。」と声を出してみる、寝ているといけないから、ほんの小さな声だ。

「そうなんです、駅で声を掛けられた時には驚きました、だって急に家来るって言いますか普通。」と彼女も小さい声だ。

二人とも起きているのだから、小さい声の必然性は無い、無くとも状況的に小声になる。

夜だったからか、布団の中に入っているからか、そのどっちも理由としては有るのかもしれない。

「もしかしたら、殺人鬼だったりしてとか思ったんですけど、どう見てもそんな風には感じられないから、付いて行ってみようと思ったんです、行く当てもなかったですし。」声が少しだけ大きくなる。

「終電が終わったら、何処に行くつもりだったの?」予定が無かったのが不思議で聞いてみる。

「そうですね、今日はネットカフェでも泊って、明日から持っているお金で出来るだけ遠くて、仕事が探せそうな場所に行こうと思っていました。」自分で方向は決めていたわけね。

声掛けられなかったら、きっと自分で何とかしようと思っていたんだ、ここに連れてきたからと言って、何が出来る訳でも無いかも知れないけど。

「女の子1人では大変だよ、解っていると思うけど。」ついお姉さん口調になってしまう。

誰にでも他人には踏み込まれたくない部分が有って、そこが解っていても言葉を掛けるのは、おせっかいだと思っている。

おせっかいだと思っていても、1人で人生に立ち向かうと考えるのは、疲れてしまうだろう。

もっとゆっくり生きても良いんだよ、自分の人生なんだから、満足は自分にだけあればいい。

「そうですよね、私も誰かに相談したいとか、頼りたいとか思ってはいたんです。」ふうと言葉を切る。

「思っていても、相談する人ってあんまりいないですよね、何処かに居ますか、兄に暴行されて困っているから、助けてって言って、信じてくれる人、兄が真面目そうなら尚更。」困った声だ。

「大変だったね、私はそれしか言えないよ、だけどね人間って上手くできていて、そんなことが有っても、ちゃんと力になってくれる人に出会う様に出来てるんだよ、きっとね。」慰める様に言葉が出る。

「そうでしょうか?」

「そうだよ、眠れなくても今日は眠ろう、眠る努力をしよう、眠れば明日には違う人生だ。」と裕子は目を瞑った。


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