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#9 違和感

5人でツナグ物語です。
前話はコチラ

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先日の牧田との飲み会で〝次の営業の時に社長の事を観察してみる〟とは言ったものの、あの変人社長に今更変化などあるのだろうか…そう思いながら地下鉄の階段を上がりその変人社長が率いる会社の方へ向かう。今日がその営業の日だ。オフィスのあるフロアに到着すると、ドアのガラス越しに例によってセグウェイに乗っている変人社長の姿が見えた。

同時に私は違和感を覚えた。
…清潔感がある。
否、オフィス内でセグウェイを乗りこなしているのも本来なら違和感であるがここではこれが日常である。
あの髪ベッタベタで口臭がひどくて埃にまみれることを好むあの変人社長に清潔感があるのだ。たしかに異常だ。

この違和感は社長室に入ると更に増した。埃臭かった部屋が良い匂いになっているだけで無く、普段無数の乳房と尻が溢れかえっていただけの中にサモトラケのニケのような彫刻が置かれていたのだ。しかしそれはニケと違いむっちりとした体であり、まるで誰かの女性の首から下を妄想し具現化したかのよう……ってそうだ、この会社は妄想を具現化するマシーンを作ってる会社じゃん。

普段よりこころなしかお洒落になった社長室でそわそわしながら商談を進めていると、社長が電話で席を外したので牧田に聞いてみる。
「おい、あれはなんだ。」
「わからないの。ある日急に家から持ってきて。」
「でもあれも妄想を具現化したものになるわけだよな?なんかお前っぽくない?」
「何言ってんの、変態。」
変態はないだろう変態は、一応心配してやってんだぞ、などと内心思っていると社長が戻ってきた。

すまんね、最近zoomと何かできんかと色々探っててねと話し始める社長を遮って単刀直入に聞く。
「社長、ところであの彫刻はいったんどうしたんですか?まるで牧田君の様ですね。」
ちょっと止めてよ、と牧田が止めにかかってきたが関係ない。これはしっかり明らかにしなければならないことなのだ。

一方、当の社長は少し目を見開き「そんなわけないじゃないか。」といつものように言った。しかし私は見逃さなかった。コーヒーに手を伸ばす社長の手が震えていたことを。


結局、ニケの話はあれ以上広がらず商談を終えた。
オフィスを出るまで牧田に見送ってもらったのだが、その際にTHE童貞くんの様な奴から物凄い視線を感じた。あぁ、あれが噂の宮本か、などと内心思いながらオフィスを出ると、ガチムチな男が一人帰ってきた。「あぁ、どうも。」と会釈だけ交わしすれ違う。
「じゃぁまた飲みに行こう。」と牧田に告げ、私はエレベーターへ向かう。エレベーターの扉が閉まる際、オフィスの中で牧田が先ほどのガチムチの男と話しているのが見えた。何を話しているのか私が知ったことではないが、少し胸がざわついていたことは否めない。しかしそれ以上に、あの社長室に鎮座するニケもどきの彫刻のことが頭から離れなかった。


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