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【VRChat】メタバース空間で、400年前の古典戯曲を上演した話


公演ポスター

約半年ぶりのnote更新です。
先日、シェイクスピアの名作戯曲「マクベス」を世界最大のVRSNS「VRChat」で上演しました。
企画の立ち上げの段階では、古い台本だし、そもそも誰もシェイクスピアなんて知らないでしょ……。と思っていたんですが……。

蓋を開ければ、来場者は120名!開場20秒も経たずに満員。初回と千秋楽の配信は、合わせて同時視聴者が200名に昇る大盛況となりました。
各種メタバース系のメディア様にも取り上げていただきました。ありがとうございます…!

バーチャルライフマガジン「演劇を見たことがない人こそVR演劇「マクベス」を観るべき3つの理由 ~先行公演の感想を添えて~」(22/11/22)
j-CASTトレンド「メタバースでシェイクスピア演劇 少女アバターが野心まみれの「マクベス」に」(22/11/22)
メタカル最前線「「アバター」が魅せていく呪いの物語。 11/25、26本公演のVR演劇「マクベス」ゲネプロ公演をレポート!」(22/11/22)
MoguLive「VRChatで演劇「マクベス」を上演 出演者はアバター姿で演技」(22/11/16)
PANORA「VTuber・ぬこぽつ、VR演劇「マクベス」11/25、26に上演 シェイクスピア四大悲劇、VRChatとYouTubeにて観劇可能」(22/11/7)
バーチャルライフマガジン「シェイクスピアの4大悲劇『マクベス』がVRChatにて11月25日(金)、26日(土)公演!」(22/10/25)
メタカル最前線「約60名のVRChatユーザーが協力 ユーザー発VR演劇「マクベス」が11/25、26開催」(22/10/24)

そして、たくさんのご感想も!
本当にありがとうございます!


「それだけじゃないよね」からはじまった

この試みには、いくつかの目的があって
・小劇場でやっている、制作手法をメタバースに持ち込むということ。
・VRならではの演出手法を排除して、リアルの演出を立ち上げること
・仮初の肉体であるアバターで稽古を繰り返したら、どれほどの生々しさを表現できるかの検証

でした。

メタバースがバズワードになって以降、バーチャル空間のカルチャーが広く認知されていく中で、メタバースの一部の文化のみがクローズアップされていきました。それに違和感を感じたことが、企画、というより自分の活動のそもそもの出発点でした。

それはそれでいいし、それの楽しみ方は一切否定していないのですが、誰しもがメタバースにやってきたときに感じたはずの"多様性"からは、ちょっと離れてるなと感じます。

メタバースのユーザーカルチャーに深く関われば関わるほど、一枚岩ではないことを思い知らされるし、それぞれがそれぞれの信念や理想のもとに、イベントを設計し、新たなユーザーを歓迎しているわけです。

特に、2021年から2022年にかけて、新規のコミュニティが立ち上がり、コミュニティ同士が潰し合いもせずに、バランスを保っているという今の日本のメタバース空間は、奇跡に近いものだと僕は思っています。クリエイターに対して、リスペクトを払うオタク文化ならではの自浄作用が働いているからというか。

なので、言葉を崩せば「それだけじゃないよね」がすべての始まりでした。

シェイクスピアと戦った98時間


98時間。これは、今回のマクベスの稽古の総時間です。週3日2時間の稽古を、6月終わりからゆっくりと開始しました。

マクベス夫人を演じたtakamiさんは、演劇未経験

大好評いただいてる役者陣ですが、実は2名を除いて舞台劇は初めて。未経験のメンツで作った舞台と言っていいでしょう。

最初期の稽古では、エチュードをどんどんやっていただきました。エチュードとは、日本語に訳すと即興劇。その名の通りその場で設定や簡単な役のプロフィールを渡して、決められた分数まで演じるというもの。これの狙いは、ふとした瞬間の言葉や、その場の判断で、その人がどのような人なのかを見るためでした。

「演劇教育」という言葉があるように、しばしばコミュニケーションのツールとして用いられることもある演劇。リアルで演劇のワークショップに何度かスタッフとして入ったことがあるのですが、自分ではない誰かになり、そのセリフを見知らぬ誰かとやり取りをすると、その所作や空気感、間の取り方といった材料から、得られる相手の情報はとても多い。
とある演出家は、「稽古をすると、相手がどんなセックスをするかまでわかる」とまで言っていました。そういった”丸裸”のやり取りを現役の役者は、日夜行っているわけですね。

ほんまか!?

脚本を渡したのは8月頭。マクベスは、全部きちんとやっていくと休憩込みで2時間半の長編。まず、VRでそれは無理でした。というのも、トラッカーの連続稼働時間が90分あたりが限界となるからです。
より精密なトラッキングを求めるなら、100分でなんとか納めたい。

最初に手を付けたのは、脚本の整理でした。
マクベスの主題は、欲望にまみれた男の転落劇。しかし、細かく登場人物をみていくと、相関図が緻密に配されています。例えば、ダンカン王とその子息。maropiさんが演じたドナルベイン(ドナルベーンとも)は、上演されている他のマクベスでは、ほとんど役名として扱われないほどのキャラクターです。ですが、このキャラクターを役付きとして扱うことで、”兄弟愛""仇討ち""家族の絆"といった要素もプラスしました。

王位継承のシーンもオリジナル


マクベスが手をかけたダンカン王の剣が、巡り巡ってマクベスを打ち倒すというのも、本作のオリジナル設定です。公式パンフレットでも言及しているのですが、"因果応報"もテーマのひとつで王殺しで王になったものが、その王殺しを受ける。"肘掛け椅子の考古学"として後世なってから評価された考古学者、ジェームス・フレイザーの「金枝篇」が紹介した「王殺しの慣習」が元ネタです。


アニメ「エウレカセブン」でも、キーアイテムとしてたびたび劇中に登場していますね

といった具合に、削る部分は削りわかりやすく加えるところは加えるという脚色をしていきました。

他にも、小ネタはいっぱいあるんですが、長くなるので公式パンフレットをお買い求めください!

とにかく稽古なんだよ


人妻感が強いと座組内で評判だったmikenekoさん

実際の稽古では、まずできた台本をシーンごとに細かく切る「場割」を用いて実施しました。というのも、VRChatでさまざまな活動をしているユーザーが役者として多く参加していたので、指名して稽古を付けたほうが効率がいいと早々に思ったからです。

ストーリーに沿って稽古をつけたかというと、そうではなく役者のスケジュールと脚本の進行を照らし合わせながら行っていきました。

また、途中でリアルの事情で降板の申し出をされた方がいたので、それを補うべく、マクダフ夫人を演じたmikenekoさんに急遽役を変え、さらに追加でお願いしました。(ほんとうにありがとう…!)

mikenekoさんは、リアルで役者としての経験がある方。これ以上ない心強い仲間でした。彼とは不思議な縁で、VRCのいつメンみたいな感じだったのですが、今回の企画にあたりよくよく話していくと、お互いが演劇活動していたころに、近い場所にいたということが判明したのでした。


中野坂上デーモンズの憂鬱の主宰、松森モヘーさん。僕のお師匠さんみたいな方です。

10月に入ってから11月の本番までは、連日通し稽古をしていきました。
リアルで関わった、中野坂上デーモンズの憂鬱という劇団の「園」という舞台が、参加者の9割が演技未経験だったのですが、この公演はのちに東京都の演劇関連の賞で、最優秀賞を取ることになります。松森さんが言っていた「とにかくね、ものづくりは数なんだよ。とにかく稽古」の言葉が強く記憶に残っていて、それを愚直にこなしていきました。

思いがけない協力者

うっひょ~!かっこよすぎ!

6月にオーディションを開催したときに、思いがけない方がjoinしてくれました。3Dモデラーのイーストさんです。本作では、マクベスの衣装(鎧/平服)、マルカム、マクベス夫人と他多数の武器を作成してくださいました。

オーディション時では、てっきり役者志望だと思っていました。イーストさんのお名前は、講師としてVRC学園に参加した際に知ってはいたものの、接点がなかったのでモデラーとは知らなかったためです。
企画の当初は、衣装については既存のアセットの改変でまかなうと、なんとなく考えていたために、本当にびっくりしました。

青と黄色の組み合わせが目によさそう

これがきっかけで、自分の中にプロジェクトとして、チームとしてものづくりをしてみようというきっかけになりました。
ドラマトゥルク、照明操作、音響管理、舞台写真…という具合に、リアルの演劇公演さながらの人員が加わってくれました。以下はサイトより抜粋。

ドラマトゥルク:mugitarouAK
衣装:East[イースト] らくちゃ
ワールド制作:アディン・ヨハネ 
照明操作:めどう(劇団moment)
舞台写真:朝比奈あさひ/koshiki/Sielu_co
音響監督:KASUMIN|かすみん 
演技指導:yoikami(カソウ舞踏団)
配信:With VR
ギミック:sinamoon
パンプレット原稿:小説家SUN

他にもいろいろ語りたいところですが、そろそろ文量が5000文字に差し迫ってきたので、役者のコメントを紹介しますね

役者コメント

ともよろう(マクベス役)


ご覧頂いた皆様からの感想に触れると、ライブ感がとにかく好評で、役者やスタッフの息が完全に合った結果だったと思います。
きびしいjoin戦争を抜けて御来場いただき、また配信をご覧いただき御礼申し上げます。皆様の御感想が、我々全員それぞれの今後を後押しして下さる原動力になります。またどこかでお会い致しましょう!ありがとうございました!


takami(マクベス夫人役)



3回の公演の中でマクベス夫人という女性を演じられたことはずっと忘れられない思い出になりました。SNS上にたくさんの感想をいただいてとっても嬉しかったのと今まで練習してきたことが報われたという思いでいっぱいでした。マクベス夫人とはこれでお別れですがみなさんの思い出に少しでも残る演技ができていたら良いなと思っています。ご覧いただきありがとうございました!

ゆーてる(マルカム役)



いただいた皆様の感想を見ると、ありがたいことにご好評いただけており、私たちの半年間が何か皆様の心を動かすようなコンテンツとなれたのであれば、何よりの光栄です。このーシャルVRの世界は、誰かの「やりたいこと」が場所も顔も名前も知らない人たちの力を合わせることで何だって実現してしまう、そんな可能性を秘めています。一緒にこのソーシャルVRの世界を楽しんでいきましょう!

はむちーず(マクダフ役)



”絆”というものを強く感じる公演でした。想定外の事態が発生しても、仲間たちの励ましや助け合いで乗り越えることが出来ました。 シェイクスピアのマクベスは大好きな話なので出来て嬉しかったです。シェイクスピア作品特有の美しい言い回しを、大好きなVRを付けて演じることはとても新鮮で楽しかったです。

VRだけど、VRじゃない"VR演劇"のこれから


タイトルムービー、かっこよかったでしょ?


新しい演劇の形、新しい文化のはじまりなど、かなり好意的なコメントをいただきありがとうございます。とはいうものの、やっている僕としてはリアルの演劇をそのままトレースしただけ。こんなにも目新しく映るのだなと、勉強になることばかりです。
各所メディアで言っていますが、たまたまVRに劇場があっただけ、たまたま役者とVRで知り合っただけ。それだけなんです。とてもシンプル。
現役のリアルの演劇のひとたちが、今回のマクベスの情報をみて「リアルの呼吸や、ライブ感は克服できるのか」との意味の声を多数いただきましたが、実際にライブ感のあるの感想をいただきました。
アバターでも、ライブ感は出せる。仮想現実でも、リアリティを感じられる。それを証明できたのではないかと思います。 

それじゃあ、また



イベントのお知らせ

VRマクベスの公開打ち上げを行います!
どなたでもどうぞ~!


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