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ショート『「自殺線あるね」と彼女は言った。』

「死にたい」と言ったことがある。
まあ、実際にはそんな露骨な言い方ではなく、知り合いの彼女がいわゆる見える人で、手相も見れるというからその場のノリで見てもらったら、「自殺線がでてるね」と彼女がぽつり。
で、否定をしなかった。
自殺線なるものが存在することは知らなかったが、別段驚きもしない鑑定結果だ。
「でも自ら首を括るとかではなくて、自然死的なかんじ」、そんな鑑定人の言葉が妙にしっくりきた。
自分が自死を選択するとすればまさにその方法を取るだろう、と思った。
特別何かをするのではなく、何もしない。
食べることも飲むことも放棄して、見ることも聞くことも拒絶して、喋ることも笑うこともなくなって、次第には息をすることすらできなくなって。

「死にたい」と言われたことがある。
これはかなり露骨な言い方だった。「もういい、俺は死にたいんだ」
僕は、「うーん」とか「ふーん」とか返したと思う。
この人は本当に死にたいのか、それともただ止めて欲しいだけなのか。
目の前の男の表情からはどちらとも読み取れない。
ただ、「死んでほしくない」と思った。
だからそう言った。
「死んでほしくない」、「死んだら悲しい」、「そんなの、なんか嫌だ」と最終的には涙目になりながら、相手をこの世に引き止めたい一心だった。
一体どの口が言ってんだ、と我ながら思った。お前が言うのか、と。
でもいやだった。死ぬのは嫌だったのだ。

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